統計学と機械学習は、どちらもデータから有用な知見を引き出すことを目的としていますが、その哲学、手法、そして目的には明確な違いがあります。これらを対立するものではなく、互いに補完し合う関係として理解することが、現代のデータサイエンスにおいて非常に重要です。
根本的な違い【推論vs予測】
統計学(推論)
統計学は、ある母集団(調査したい全体のグループ)から抽出されたデータ(標本:実際に調査したサンプル)を用いて、その母集団全体の性質や変数間の因果関係を仮説検定(あらかじめ立てた仮説が正しいかどうかを統計的に検証する手法)を通じて明らかにしようとします。ここでの目標は、モデルの解釈可能性(なぜそのような結果になったのかを説明できること)と、結果の統計的有意性を確立することです。
例えば「新しいウェブサイトのデザイン変更が、ユーザーの滞在時間を本当に伸ばしたのか?」という問いに対し、統計学はデータが偶然の産物ではないことを示すp値(統計的有意性を示す指標で、一般的に0.05以下なら「偶然ではない」と判断することが多い)や、効果の大きさを推定する信頼区間(真の効果がある範囲内に含まれる確率を示す区間)を提供します。
機械学習(予測)
機械学習は、与えられたデータから複雑なパターンを学習し、未知のデータに対して高い予測精度を達成することを目標とします。モデルがなぜそのような予測をしたかという解釈は、必ずしも最優先事項ではありません。
例えば「このユーザーが次にどの商品をカートに入れるか?」を高い精度で予測できれば、それだけでビジネス上の価値が生まれます。予測の性能は、交差検証(データを複数の部分に分けて、一部で学習し残りで性能を測定する手法)や独立したテストデータセットを用いて評価されます。
アプローチと哲学の違い
統計学のアプローチ
- モデルの構造を厳密に定義し、そこから得られるパラメータ(モデルの係数や設定値)の解釈に重きを置きます。
- データが特定の確率分布(正規分布など、データの散らばり方のパターン)に従うという前提(モデルの仮定)から出発します。
- 線形回帰のようなモデルは、各変数の影響度を明確に示します。
機械学習のアプローチ
- モデルに厳密な仮定を置かず、ひたすらデータから学習することで最適なアルゴリズムを見つけます。
- より柔軟なアプローチを採用し、決定木(質問を重ねて分類する手法)やニューラルネットワーク(脳の神経回路を模したモデル)のような非線形なモデルも積極的に利用します。
- これらのモデルは複雑な関係性を捉えることができますが、その動作原理は「ブラックボックス」(内部の仕組みが見えない)になることも多いです。
相補的な関係
統計学が機械学習を強化する場面
- 探索的データ分析(EDA:Exploratory Data Analysis):データの分布(データの散らばり方)、外れ値(他と大きく異なる値)、変数間の相関(関連性の強さ)などを理解するために不可欠です。
- 特徴量エンジニアリング:統計的検定(例:t検定(2つのグループの平均値の違いを調べる手法)、ANOVA(3つ以上のグループの平均値を比較する分散分析))は、目的変数と関連性の高い特徴量を特定し、モデルの予測性能を改善します。
- モデルの評価と検証:交差検証やブートストラップ法(元のデータから何度も復元抽出してモデルの性能を評価する手法)は、モデルの過学習(訓練データにだけ適合しすぎて、新しいデータに対する性能が悪くなること)を避け、未知データに対する汎化性能を客観的に評価します。
- 因果推論:単なる予測を超えて「なぜ」という問いに答えるための枠組みを提供します。
機械学習が統計学を拡張する場面
- 高次元データと非構造化データ:数十万の変数を持つ高次元データや、画像・テキスト・音声といった非構造化データ(数値以外の複雑なデータ)の処理を得意とします。
- 予測精度の向上:統計モデルの限界を超えて、勾配ブースティング(複数の弱いモデルを組み合わせて強いモデルを作る手法)やニューラルネットワークがより高い精度を達成します。
- 新しい統計的手法の導入:正則化手法(Lasso(不要な変数を自動で除外する手法)やRidge(変数の影響を適度に抑制する手法))など、機械学習から統計学へ取り入れられた概念があります。
まとめ
統計学と機械学習は、どちらか一方が優れているというものではなく、目的や課題に応じて適切に使い分ける、あるいは組み合わせて利用すべきツールです。統計学の推論と機械学習の予測を両輪とし、それを効果的に使うことがデータから最大限の価値を引き出す鍵となります。
