2026年 2月 25日 水曜日

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5.6 フリードマン検定


統計学において、複数の処理条件や測定タイミングにおける差を検証する必要が生じることは多いです。例えば、ある薬剤を投与した後の経過時間ごとに血圧を測定し、時間の経過とともに有意な変化があるかを調べたい場合や、同じ被験者に異なる種類の治療法を適用してその効果を比較したい場合があります。このような場合、同一の対象に対して繰り返し測定を行うため、測定値は独立ではなく相関を持ちます。

従来、分散分析(ANOVA)の枠組みでは対応のある反復測定分散分析が用いられますが、データが正規分布(確率分布の一つで、平均値を中心に左右対称の釣鐘型の形状を持つ分布)に従わない場合や、分散の等質性が満たされない場合には、その適用が難しくなります。こうした状況で広く用いられるノンパラメトリック手法の一つがフリードマン検定です。

フリードマン検定(Friedman test)は、アメリカの統計学者ミルトン・フリードマンが1940年に提案したノンパラメトリック検定であり、繰り返し測定のあるデータに対して処理条件間の差を検出することを目的としています。この手法は、対応のある一元配置分散分析(Repeated measures ANOVA)のノンパラメトリック版に相当します。フリードマン検定では、データを順位に変換し、その順位の分布に基づいて処理条件の効果を検証します。そのため、分布の正規性を仮定する必要がなく、外れ値の影響を受けにくいという特長があります。

本稿では、フリードマン検定の基本的な考え方、数式モデル、前提条件、手順、具体的な実例、効果量、そして応用上の注意点までを詳しく解説します。

フリードマン検定の基本的な考え方

フリードマン検定は、被験者ごとに順位を付与し、その順位を比較することによって処理条件間の差を評価します。たとえば、10人の被験者に3種類の処理を行った場合、それぞれの被験者のデータについて3つの処理条件の中で順位をつけます。そして、処理条件ごとに順位の合計を求め、それらの差が偶然に起こる範囲を超えているかどうかを検定します。

この考え方は、分布に依存せずに順位情報だけを用いるというノンパラメトリック手法の利点を活かしています。順位を用いるため、外れ値の影響が軽減され、データの分布形に依存せずに解析を行うことが可能です。

数式モデル

  • 被験者数:$ n $
  • 処理条件数:$ k $
  • 各被験者 $ i $ における処理条件 $ j $ の観測値:$ X_{ij} $
  • 被験者 $ i $ における条件 $ j $ の順位:$ R_{ij} $
  • 処理条件 $ j $ の順位合計:$ R_{.j} = \sum_{i=1}^n R_{ij} $

フリードマン検定の統計量 $ Q $ は次の式で与えられます。

$$ Q = \frac{12}{nk(k+1)} \sum_{j=1}^k R_{.j}^2 – 3n(k+1) $$

この統計量は漸近的に自由度 $ k-1 $ のカイ二乗分布に従うとされています。

$$ Q \sim \chi^2_{k-1} $$

前提条件

  • 測定デザインが繰り返し測定であること
  • 各被験者はすべての処理条件に参加していること
  • 各処理条件に対する測定は順序尺度以上であること
  • 各被験者内で処理条件ごとに順位が付けられること

手順

  1. 各被験者ごとに処理条件間の観測値を順位に変換する。
  2. 各処理条件ごとに順位の合計を計算する。
  3. 検定統計量 $ Q $ を計算する。
  4. $ Q $ を自由度 $ k-1 $ のカイ二乗分布と比較し、有意性を判定する。

実例

  • 薬剤効果の比較:10人の患者に3種類の薬剤を投与し、それぞれの血圧降下量を記録。フリードマン検定により薬剤間で有意な差があると判定。
  • 教育プログラムの評価:同じ学生に異なる3種類の学習プログラムを体験させ、理解度テストの得点を比較。フリードマン検定によりプログラム間に差があると判定。
  • 味覚評価の研究:同じパネルに3種類の新味を試食させ好みを順位付け。フリードマン検定により有意差が得られれば、味の好みに条件差があると結論。

効果量

代表的な効果量として Kendall の一致係数 $ W $ が用いられます。

$$ W = \frac{12 \sum_{j=1}^k (R_{.j} – \bar{R})^2}{n^2 (k^3 – k)} $$

ここで $ \bar{R} $ は平均順位和を意味します。$ W $ の値は0から1の範囲を取り、1に近いほど差が大きいことを意味します。一般的には 0.1 程度で小さい効果、0.3 程度で中程度、0.5 以上で大きな効果と解釈されます。

注意点

  • 有意差が認められても、どの条件間に差があるかは分からないため、事後検定が必要。
  • 被験者が一部の条件にしか参加していない場合は適用できない。欠測値の扱いに注意が必要。
  • データ数が少ない場合、カイ二乗近似が妥当でない可能性がある。その場合は正確検定や置換検定が望ましい。

まとめ

フリードマン検定は、繰り返し測定デザインにおける条件間の差を検出するための強力なノンパラメトリック手法です。分布の正規性を仮定せずに利用できるため、実験データや心理学的調査、医療研究、官能評価など幅広い分野で応用可能です。ただし、有意差の内容を明らかにするには事後検定が必要であり、効果量の報告も重要です。Kendall の一致係数を用いることで、差の大きさを定量的に評価することが可能になります。

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