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【医療統計版】19. 反復イベント:初回だけを解析すると何を捨てているか

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心不全の再入院、喘息の増悪、感染の再燃。同じ患者に何度も起きる事象を扱う研究では、初回イベントまでの時間でCox回帰を組むことが多くあります。2回目以降のデータは残っているのに使われません。

この扱いには理由があります。標準的な生存時間解析は1人1イベントを前提としており、初回だけを取れば枠組みに収まるためです。ただし、捨てている情報の量は小さくありません。

6名の患者の追跡線に、複数回のイベントが点で示された図。患者によってイベント回数が0回から3回まで異なる。
図1 同じ36か月の追跡でも、1度も起きない患者と3回起きる患者がいます。初回だけを見ると、この2人目と3人目の違いが消えます。

初回だけで何を失うか

400例、平均1.26回の反復イベントがある架空データで比べました。真のハザード比は0.65です。

左は初回のみ・Andersen-Gill・PWPの3手法によるハザード比のフォレストプロット。右は初回のみが60%、Andersen-Gillが88%という検出力の比較。
図2 左の点推定はどれも0.78から0.84の範囲ですが、初回のみは信頼区間が1をまたぎます。右の検出力は60%対88%。同じ患者集団から、結論が出るか出ないかが分かれます。

イベント数が190件から427件に増えるので、精度が上がります。反復イベントを扱う理由の大半はここにあります。症例数を増やさずに検出力を上げられる、数少ない手段です。

もうひとつ、臨床的な妥当性の問題もあります。年に4回入院する患者と1回の患者を、初回入院までの時間だけで同じと見なすのは、疾患の負担を表していません。

1人あたり何回起きるか

反復イベントで最も読みやすい要約は、平均累積関数です。時点$t$までに1人あたり平均何回イベントが起きたかを表します。

$$\mu(t) = E[N(t)] \tag{1}$$

式(1)の$N(t)$は時点$t$までのイベント回数です。生存関数と違って上限が1ではなく、追跡が伸びれば増え続けます。

対照群と治療群の平均累積関数。36か月時点で1人あたり1.68回と1.42回に達している。
図3 3年で1人あたり1.68回と1.42回。差は0.26回です。「3年間で入院が4人に1人ぶん減る」という言い方ができ、ハザード比より病院の負担に結びつけやすい数字になります。

3つのモデルの違い

Andersen-Gillモデルは、反復イベントを1本の計数過程として扱います。データはstart-stop形式で、イベントのたびに行が変わります。リスク集合は「追跡中の全員」で、既に3回起こした患者も1回も起こしていない患者も同じ扱いです。

library(survival)

coxph(Surv(start, stop, event) ~ trt + cluster(id), data = d)

同じ患者の複数行は独立でないので、ロバスト分散で補正します。これを忘れると信頼区間が狭くなりすぎます。

PWPモデルは、イベントの順番で層別します。1回目のイベントは1回目同士、2回目は2回目同士で比べる形です。「2回目以降は起きやすくなる」という状況を扱えますが、後半の層は人数が減るので推定が不安定になります。層をまとめる(4回目以降を1つの層にするなど)のが実務的です。

coxph(Surv(start, stop, event) ~ trt + strata(enum) + cluster(id), data = d)

frailtyモデルは、患者ごとの起こしやすさをランダム効果で表します。「よく起こす患者」がいる構造を明示的にモデル化するので、その分散自体が知見になります。

どれを選ぶかは、リスク集合の設定をどう考えるかで決まります。Andersen-Gillは、イベントを起こしたあともリスクが変わらないと仮定しています。心不全の再入院のように、1回起こすと次が起きやすくなる疾患では、この仮定が疑わしくなります。その場合はPWPかfrailtyのほうが実態に合います。

死亡があると話が変わる

反復イベントの研究で見落とされやすいのが、死亡の扱いです。亡くなった患者はそれ以降イベントを起こしません。死亡を単なる打ち切りとして扱うと、予後の悪い患者が抜けたあとの集団を見ることになります。

治療が死亡を減らすと、その群では長く生きる患者が増え、再入院の機会も増えます。イベント回数だけを比べると、治療が悪く見えることさえあります。

これは競合リスクと同じ構造です。対処としては、死亡を競合事象として扱う平均累積関数を使う方法、再入院と死亡を組み合わせた複合的な指標を使う方法、そしてマルチステートモデルで両方を明示的に扱う方法があります。

死亡率が群間で違う研究では、この処理を省けません。私が原稿を確認するとき、反復イベントの解析で死亡がどう扱われているかを必ず見ます。

症例数設計への影響

反復イベントを主要評価に置くと、必要な症例数が減ります。1人が平均して複数回のイベントを起こすなら、同じイベント数をより少ない患者から集められるためです。

ただし、単純にイベント数で割ることはできません。同じ患者から出たイベントは互いに相関しているので、独立なイベント427件は独立な患者427人分の情報を持ちません。相関が強いほど、実質的な情報量は減ります。

この目減りを表すのが、イベント数の分散と平均の比です。ポアソン分布なら1、それより大きければ過分散で、患者ごとのばらつきが大きいことを表します。図2の設定では過分散があり、イベント数が2.2倍になっても検出力の伸びは60%から88%に留まりました。イベント数の比だけで見積もると、必要症例数を過小に見積もります。

実務では、過去の類似コホートから1人あたりのイベント回数とその分散を取り、そこから見積もることになります。この情報がなければ、初回イベントで設計しておいて、反復イベントの解析を追加解析に置くほうが安全でしょう。

データの持ち方

1人1行のデータでは組めません。イベントごとに行を分けたstart-stop形式が要ります。抽出を依頼する段階で、全てのイベント日と追跡終了日を含めてもらいます。

同じ日に複数回のイベントが記録されている場合や、入院期間中に次のイベントが記録されている場合の扱いも決めておきます。入院中はイベントが起きえないなら、その期間をリスク集合から外す処理(治療期間の除外)が必要です。これを省くと、入院が長い患者ほどイベント率が低く見えます。

最短の間隔も決めます。退院翌日の再入院を2回と数えるか1回と数えるか。30日以内の再入院は同一エピソードとする、といった規則が使われます。この規則で結果が動くので、事前に決めて感度分析を用意します。

回数を数えるだけでよいか

反復イベントの解析では、全てのイベントを同じ重みで数えます。1泊の入院と1か月の入院が同じ1回です。臨床的な負担が違うのに、統計上は区別されません。

重症度を反映させたいなら、いくつか方法があります。入院日数を応答変数にする、重症イベントだけを別に解析する、あるいは階層的な複合エンドポイントを組む。

近年使われるのがwin ratioです。患者を1対1で総当たりに比べ、まず死亡の有無で勝敗を決め、決まらなければ入院回数、それでも決まらなければ入院日数、と優先順位をつけて判定します。勝った組と負けた組の比を効果指標にします。

この方法なら、死亡を入院より重く扱うという臨床的な順序をそのまま解析に持ち込めます。心不全領域の大規模試験で採用例が増えています。ただしフォローアップ期間が患者ごとに違うと比較できない組が出るなど、扱いには注意が要ります。

負の二項モデルという選択

イベントの発生時刻ではなく回数だけを扱うなら、負の二項回帰が使えます。追跡期間をオフセットに入れ、期間あたりの発生率を比べる形です。

時間の情報を捨てるので、イベントが追跡の前半に集中しているのか後半なのかは分かりません。その代わり、モデルが単純で、過分散のパラメータが1つで済みます。喘息増悪や発作回数のように、発生時刻より年間何回かのほうが臨床的に意味を持つ領域では、この形が使われます。

Andersen-Gillモデルとの違いは、時間構造を使うかどうかです。治療開始からの経過で発生率が変わるなら計数過程の枠組みが要りますし、期間を通じて一定とみなせるなら負の二項回帰で足ります。前者かどうかは、平均累積関数の傾きが一定かを見れば判断できます。図3の2本はほぼ直線なので、この例では後者でも大きく外しません。

報告の仕方

イベント回数の分布を載せます。0回が何人、1回が何人、2回以上が何人。この表があれば、読者は反復イベントの手法を使う必要があったかを判断できます。ほとんどの患者が0回か1回なら、初回のみの解析とあまり変わりません。

総イベント数と総追跡期間、そして1人年あたりのイベント率を群別に書きます。ハザード比だけでは、絶対的な負担が伝わりません。

使ったモデルとリスク集合の設定を明記します。Andersen-Gill、PWP、frailtyのどれか。ロバスト分散を使ったかどうかも書きます。

平均累積関数の図を載せることを勧めます。図3のような形で、両群の曲線と最終時点の値を示せば、効果の大きさが1つの数字で伝わります。

死亡の扱いも書きます。何人が死亡し、それを打ち切りとしたのか競合事象としたのか。群間で死亡率が違ったなら、その影響の向きも考察に入れます。

次に確かめること

データ形式は時変共変量と同じstart-stop形式です。患者内の相関の扱いはfrailtyモデルと多施設データで扱った枠組みが、そのまま患者をクラスターとして当てはまります。

死亡を含めた記述は競合リスクマルチステートモデルにあります。

反復イベントを主要評価に置くべきか、再入院の定義をどうするか、死亡をどう扱うか。このあたりは疾患の性質と研究目的を見ないと決まりません。Dr.データサイエンスでは、こうした解析設計のご相談を承っています。

参考文献

Andersen PK, Gill RD. Cox’s regression model for counting processes: a large sample study. Annals of Statistics. 1982;10(4):1100-1120.

Prentice RL, Williams BJ, Peterson AV. On the regression analysis of multivariate failure time data. Biometrika. 1981;68(2):373-379.

Rogers JK, Pocock SJ, McMurray JJ, et al. Analysing recurrent hospitalizations in heart failure. European Journal of Heart Failure. 2014;16(1):33-40.

Ghosh D, Lin DY. Nonparametric analysis of recurrent events and death. Biometrics. 2000;56(2):554-562.

Cook RJ, Lawless JF. The Statistical Analysis of Recurrent Events. Springer; 2007.

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