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【医療統計版】傾向スコアマッチング:誰が解析から消えたのか

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観察研究で治療効果を推定する方法として、傾向スコアマッチングは説明しやすい選択肢です。似た患者同士を組にして比較する、という考え方は臨床的な直感にも合います。

因果推論では重み付けを中心に扱いましたが、ここではマッチングを取り上げます。手続きが分かりやすい一方で、注意すべき点があり、特に重要なのがマッチングによって「誰が解析から外れるのか」と、マッチング後のデータの分散をどのように扱うかです。

マッチできない患者がいる

2000例の架空データで、最近傍マッチングを行いました。キャリパーは、傾向スコアのロジット値の標準偏差の0.2倍とする、よく使われる設定です。

ps <- predict(glm(trt ~ sev + age + com, family = binomial, data = d),
              type = "response")

治療群975人のうち、実際にマッチできたのは596人でした。379人、約4割が解析対象から外れています。

傾向スコアのヒストグラム。治療群のうちマッチできた患者と、傾向スコアが高くマッチできなかった患者が色分けされている。
図1 マッチできなかった患者は右側に偏っています。マッチできた治療群の傾向スコア平均は0.494、マッチできなかった患者では0.759でした。対照群に似た患者が少ない、治療を受けやすい患者ほどマッチしにくかったことが分かります。

これは偶然ではなく、マッチングの構造から生じます。傾向スコアが高い患者は、治療群には多くても対照群には少ないため、似た相手を見つけにくくなります。

臨床的に見ると、治療の適応が明確な患者ほど解析から外れている可能性があります。したがって、マッチング後に得られたハザード比を、その379人にもそのまま当てはめることはできません。「治療を受けた患者全体における効果」を推定したつもりでも、実際には「対照群にも似た患者が存在する範囲の治療患者における効果」になっています。

これは、推定結果の適用範囲に関わる問題です。マッチできなかった患者の人数だけでなく、その特徴も報告しなければ、読者はその結果が誰についてのものなのか判断できません。

組になったデータの分散

マッチング後のデータは、通常の独立した標本ではありません。組になった患者同士は傾向スコアが近く、共変量も似ています。この構造を無視すると、標準誤差や信頼区間の推定が適切でなくなる可能性があります。

マッチ後の3通りの分散の扱い、IPTW、回帰調整によるハザード比を並べたフォレストプロット。
図2 上3本がマッチ後の3通りの解析です。通常分散とロバスト分散では点推定は同じ0.784ですが、信頼区間の幅がわずかに異なります。組で層別したCox回帰では点推定自体が0.731に変化します。

層別Cox回帰は、マッチした組の中で治療群と対照群を比較するモデルです。組ごとに基準ハザードを分けるため、マッチングの設計を解析モデルに反映させた形になります。層別Coxモデルで扱った構造がここに現れます。

マッチング後の分散推定については複数の方法があり、文献でも議論があります。Austin(Stat Med 2014)は、マッチした組の構造を反映した分散推定を推奨しています。実務上は、層別Cox回帰またはロバスト分散を主解析とし、もう一方を感度分析として示す方法が考えられます。通常の独立標本として分散を計算するだけの解析は避けるべきでしょう。

バランスは取れている

マッチングでもIPTWでも、適切に実施すれば共変量のバランスを改善できます。

3つの共変量について、調整前・マッチ後・IPTW後の標準化差を並べた図。調整前は重症度が0.95だが、マッチ後もIPTW後も0.1を下回る。
図3 調整前は重症度の標準化差が0.95でしたが、マッチ後は0.009、IPTW後は0.020となり、いずれも慣例的な基準である0.1を大きく下回っています。共変量のバランスという点では、両者に大きな差はありません。

したがって、「バランスが取れた」という事実だけでは、マッチングとIPTWのどちらを選ぶべきかは決まりません。重要なのは、どの集団について効果を推定しているのかです。マッチングでは対象集団が絞られ、IPTWでは基本的に全例を用いて集団全体の効果を推定します。

推定対象を統計的な用語で表すと、標準的なマッチングでは治療群における平均処置効果、通常のIPTWでは集団全体における平均処置効果が主な対象になります。IPTWでも重みの定義を変えれば、治療群における効果を推定できます。

つまり、これは統計的な優劣というより、答えたい臨床的な問いによって決まります。「実際にこの治療を受ける患者にとって、受けない場合よりよいのか」という問いなら前者、「この治療を対象集団全体に広げたらどうなるのか」という問いなら後者が対応します。

傾向スコアモデルに何を入れるか

傾向スコアモデルには、治療選択と転帰の両方に関係する交絡因子を入れます。また、転帰の予測因子も、治療との関連が弱くても入れる価値があります。予後に関する情報を利用することで、推定の精度が改善する場合があるためです。

一方、治療選択には強く関係するものの、転帰とは関係しない変数を入れることには注意が必要です。このような変数を加えると、両群の傾向スコアの分布が離れ、共通サポートが狭くなることがあります。図1で示したように、マッチできない患者が増える可能性があります。さらに、未測定交絡が存在する場合には、交絡による偏りが大きくなる可能性も指摘されています。

治療後に測定された変数は、通常の傾向スコアモデルには入れません。治療の影響を受けた中間変数を調整することになり、時変共変量で触れた過調整の問題につながるためです。

傾向スコアの推定にはロジスティック回帰がよく使われます。ただし、C統計量が高いこと自体は、よい傾向スコアモデルの条件ではありません。治療の予測精度を高めることよりも、両群の共変量バランスと十分な重なりを確保することが重要です。

マッチングの設計

キャリパーの幅として、傾向スコアのロジット値の標準偏差の0.2倍を用いる方法がよく使われます。キャリパーを狭くすると似た患者同士を組みやすくなりますが、マッチできない患者が増えます。図1でいえば、右側の患者がさらに解析から外れることになります。

逆にキャリパーを広げれば、より多くの患者をマッチできますが、互いに十分似ていない患者同士を組むことになります。マッチ率と共変量バランスの両方を確認して、妥当な設定を選ぶ必要があります。

復元抽出を許すかどうかも、事前に決める設計上の選択です。1人の対照患者を複数の治療患者に割り当てれば、マッチ率を高められます。一方で、同じ患者が複数回解析に登場するため、分散の扱いが複雑になります。

1対多のマッチングも使われます。対照群に十分な患者がいる場合、1人の治療患者に2人や3人の対照患者を割り当てることで、推定精度が改善することがあります。この場合も、マッチした組の構造を分散推定に反映させます。

実務では、マッチングを行う前に、どの程度の患者が共通サポートの範囲に入っているかを確認します。治療群の多くがマッチできるならマッチングは扱いやすい方法ですが、半数近くがマッチできないのであれば、対象集団が大きく変わるため、重み付けなど別の方法も検討します。

マッチングを使わないという選択

傾向スコアは、マッチング以外にも使えます。重み付けのほか、傾向スコアで層別する方法や、傾向スコアを共変量として回帰モデルに入れる方法があります。

層別は手続きが比較的単純で、各層の効果を比較することで効果修飾を検討することもできますが、層内に残った共変量の不均衡を完全に取り除けるとは限りません。傾向スコアを共変量として回帰に入れる方法では、傾向スコアと転帰との関係を適切にモデル化する必要があります。

共変量が少なく症例数も十分であれば、傾向スコアを経由せず、直接回帰調整するほうが単純な場合もあります。傾向スコア法が特に有用なのは、共変量が多い一方でイベント数が限られているような状況です。

二重にロバストな推定

傾向スコアモデルも転帰モデルも、どちらも正しく指定できるとは限りません。共変量の効果を線形で表してよいのか、交互作用を考慮すべきなのかなど、モデルの形には不確実性があります。

二重にロバストな推定法は、この不確実性に対応するための方法です。傾向スコアモデルと転帰モデルを組み合わせ、どちらか一方のモデルが正しく指定されていれば、推定量が一致性を持つという性質を利用します。もちろん、両方のモデルが誤っていれば偏りは残りますが、一方のモデルだけに依存するよりも頑健性を高められます。

生存時間解析では、IPTWで重み付けしたデータに対して、さらに共変量を含むCox回帰を行う形が一つの実装です。重み付けによって大まかなバランスを確保し、残った共変量の違いを回帰モデルで調整する考え方です。

マッチング後に共変量を入れてよいか

マッチングによって共変量のバランスが取れたのであれば、さらに共変量を調整する必要はないように思えます。しかし、マッチング後の回帰モデルに予後因子を加えることで、残った不均衡を調整し、推定精度を改善できる場合があります。

ただし、どの変数を追加するかは事前に決めておくことが重要です。マッチ後のバランス表を見て、標準化差が大きかった変数だけを追加するという手順では、データを見た後に解析モデルを決めることになります。傾向スコアモデルに含めた主要な共変量を転帰モデルにも含める、といった事前の規則を設定しておくほうが明確です。

報告の仕方

まず、マッチング前後の人数を報告します。治療群の何人中何人がマッチしたのか、対照群から何人が使われたのかを示します。これが図1の情報に相当します。

次に、マッチできなかった患者の特徴を示します。傾向スコアの分布だけでなく、主要な共変量についても比較します。マッチできなかった患者が系統的に異なるのであれば、推定結果の適用範囲が狭くなります。

マッチングの手順も再現できるように記載します。距離の定義、キャリパー、復元抽出の有無、マッチング比率、マッチングの順序などです。最近傍マッチングでは処理順によって結果が変わることがあるため、乱数を使う場合にはその設定も記録しておくとよいでしょう。

共変量バランスは標準化差で示します。p値だけでバランスを評価するのは適切ではありません。症例数によってp値が大きく変化するため、標準化差のほうがバランスの程度を直接評価できます。

最後に、マッチング後の分散をどのように推定したかを明記します。組の構造を考慮したのか、ロバスト分散を使ったのか。図2のように、分散の扱いによって信頼区間だけでなく、解析方法によっては点推定も変わり得ます。

次に確かめること

重み付けによる推定と未測定交絡については因果推論で扱いました。マッチした組の相関を分散に反映させる考え方はfrailtyモデルと多施設データ、層別Cox回帰の性質は層別Coxモデルで説明しています。

治療が途中で変更されるような状況では、ここまでの方法だけでは十分ではありません。治療開始後の変化を考慮した因果推論が必要になり、周辺構造モデルなどが候補になります。

マッチングと重み付けのどちらを選ぶか、キャリパーをどう設定するか、そしてマッチできなかった患者をどう扱うか。これらは、データの重なり具合と研究で答えたい問いを踏まえて決める必要があります。Dr.データサイエンスでは、こうした解析設計についてのご相談を承っています。

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