Kaplan-Meier推定量もCox回帰も、打ち切りについて1つの仮定を置いています。時点$t$で打ち切られた患者は、その時点で追跡が続いている患者と同じ予後を持つ、という仮定です。
この仮定は無害に見えますが、実際の脱落は無作為に起きません。具合が悪くなって来院しなくなる、他院へ移る、治療を諦める。どれも予後と関係しています。
ここでは、関連の強さだけをランダムに設定したサンプルデータを使用して、脱落が予後と関連したときに推定値がどれだけ動くかを測ります
生存率は上振れする
未観測の予後因子を1つ置き、その値が悪い患者ほど早く脱落する設定にしました。関連の強さを3段階に変えて曲線を描きます。


ズレの向きは決まっており、予後の悪い患者が先に抜けるなら、生存率は必ず高めに出ます。逆に、予後の良い患者が「もう大丈夫」と通院をやめるなら、低めに出るという形です。どちらの向きに触れるかは、脱落の理由から判断できます。
注意点として、この偏りは検定では見つかりません。仮定が破れているかどうかを、観測されたデータから確かめる方法がないためです。打ち切られた患者のその後は、定義上、観測されないことになります。
群間比較は意外と頑健
ここまでは集団全体の生存率の話ですが、群間比較はどうなるのか見ていきます。
図2と同じ設定でハザード比を計算すると、0.754から0.730までしか動きませんでした。脱落が両群に同じようにかかるなら、比較そのものはあまり歪みません。予後の悪い患者が両群から等しく抜けるためです。
問題は、脱落率が群間で違うときです。

この構造はエンドポイントの定義で扱った中止時打ち切りの問題と同じです。効かないと感じた患者が対照群で多く脱落する、という状況は観察研究でも試験でも起こります。
そのため確認の順序は決まります。まず脱落率を群別に出し、同じなら、群間比較はある程度信用できます。異なる場合は、その差が予後と関係しているかを疑い、脱落の理由を群別に集計します。
打ち切りの理由を分ける
全ての打ち切りが問題なわけではありません。データカットオフによる打ち切りは、研究の運営上の都合で起きるもので、患者の予後とは無関係です。追跡期間の長さが患者の状態と関係していなければ、この打ち切りは仮定を満たします。
危ないのは追跡不能による打ち切りです。来院が途絶えた、転居した、連絡が取れない。これらは患者の状態と関係している可能性があります。
報告では、この2つを分けて数えます。「打ち切り350例」ではなく「データカットオフ280例、追跡不能70例」と書きます。後者の割合が小さければ、仮定への影響は限定的だと言えます。
観測された変数で説明できるなら直せる
脱落が、観測されている共変量で説明できる場合があります。例えば、高齢者ほど通院が続かない、遠方の患者ほど転院するなど、年齢や居住地が記録されていれば、この構造は扱えます。
そして、逆確率打ち切り重み付けがその方法です。各時点で打ち切られずに残っている確率を共変量から推定し、その逆数で重み付けします。脱落しやすい特徴を持つ患者のうち残っている人を重く数えることで、脱落した人の分を代表させる形です。
cmod <- coxph(Surv(tm, 1 - st) ~ age + region, data = d) # 打ち切りのモデル
# 各時点の打ち切られない確率から重みを作り、解析に渡す
手続きは因果推論の重み付けと同じで、扱う対象が治療ではなく打ち切りに変わっただけです。Fine-Grayモデルの内部でも同じ考え方の重みが使われています。
ただし、これで直せるのは観測された変数で説明できる部分だけです。図2のシミュレーションでは、脱落を説明する変数が未観測でした。この場合、重み付けをしても偏りは残ります。
直せないなら幅を出す
未観測の要因による脱落は、統計的には直せず、対応策としてはどの程度の偏りがありうるかを推定することです。
現実的な手段としては、脱落した患者のハザードが残った患者の何倍かを仮定して、その倍率を動かす方法です。1.5倍、2倍、3倍と変えて結果を並べ、結論が変わる倍率を特定します。臨床的にありえない倍率でしか結論が覆らないのであれば、結果は頑健だと言えます。
脱落した患者を記述する
解析の前に、脱落した患者と最後まで追跡できた患者を並べ比べ、年齢、病期、全身状態、治療内容に差があれば、打ち切りの仮定は疑わしくなります。
この比較は単純ですが、論文に載っていることが少ない部分です。追跡不能が70例あったと書かれていても、その70例がどんな患者だったかは分からず、読者は仮定の妥当性を判断できません。
また、差の向きが分かれば、偏りの向きも分かります。脱落した患者のほうが高齢で病期が進んでいたなら、生存率は高めに出ているはずです。この一文が考察にあるだけで、読者の受け取り方が変わります。
もうひとつ、脱落までの時間も見ます。早期に集中しているのか、追跡期間を通じて一定なのか。早期に集中しているなら、治療開始直後の有害事象や効果不良が原因である可能性が高く、予後との関連が疑われます。
全生存期間なら打ち切りを減らせる
無増悪生存期間では、進行の判定に来院が必要で、来院が途絶えれば、そこで打ち切るしかありません。
一方で、全生存期間は異なります。必要なのは生死の情報だけで、来院とは切り離せます。
そのため、同じ研究でも無増悪生存期間の打ち切りは多く、全生存期間の打ち切りは少なくなります。前者で情報のある打ち切りが疑われる場合、後者の結果と突き合わせることに意味があります。両者の結論が食い違うなら、打ち切りの構造を疑う材料になります。
感度分析をどう組むか
例えば、脱落した患者のハザードが、残った患者の$\delta$倍だったと仮定します。$\delta$を1から動かして結果を再計算すれば、偏りの幅が見えます。
$\delta=1$は標準的な打ち切りの仮定です。$\delta=2$なら、脱落した患者は残った患者の2倍の速さでイベントを起こしていたことになります。この倍率を1.5、2、3と変えて、生存率やハザード比を並べます。
実装はそこまで難しくなく、打ち切られた患者に、仮定した倍率のハザードでイベント時刻を割り当て直し、多重代入の形で複数のデータセットを作って解析します。結果を統合すれば、その$\delta$のもとでの推定値と区間が得られます。
報告では、結論が変わる$\delta$を特定します。「脱落した患者のハザードが2.5倍以上でなければ、有意差は保たれる」という書き方なら、読者は臨床的にありえる範囲かを判断できます。2.5倍が非現実的なら結論は頑健ですし、1.2倍で覆るなら結論は保留すべきです。
さらに、群間で$\delta$を変える設計も使われます。対照群の脱落だけが予後と強く関連していると仮定する形で、図3の状況に対応します。試験の運用から、どちらの群でその構造が起きやすいかは見当がつくことが多いと思います。
次に確かめること
打ち切りの種類そのものは打ち切りと左切断、試験でのイベント定義と打ち切り規則はエンドポイントの定義で扱いました。
重み付けの枠組みは因果推論、共変量の欠測という別種の欠測問題は稿を改めます。感度分析の設計全般も別の記事で扱います。
追跡不能をどう減らすか、残った脱落をどう論じるか、境界をどこに置くか。このあたりは研究の運用と利用できる情報源を見ないと決まりません。Dr.データサイエンスでは、こうした解析設計のご相談を承っています。
参考文献
Robins JM, Finkelstein DM. Correcting for noncompliance and dependent censoring in an AIDS clinical trial with inverse probability of censoring weighted (IPCW) log-rank tests. Biometrics. 2000;56(3):779-788.
Siannis F, Copas J, Lu G. Sensitivity analysis for informative censoring in parametric survival models. Biostatistics. 2005;6(1):77-91.
Templeton AJ, Amir E, Tannock IF. Informative censoring: a neglected cause of bias in oncology trials. Nature Reviews Clinical Oncology. 2020;17(6):327-328.
Campigotto F, Weller E. Impact of informative censoring on the Kaplan-Meier estimate of progression-free survival in phase II clinical trials. Journal of Clinical Oncology. 2014;32(27):3068-3074.
Klein JP, Moeschberger ML. Survival Analysis: Techniques for Censored and Truncated Data. 2nd ed. Springer; 2003.


