データを受け取って最初に作る表の一つが、変数ごとの欠測数と欠測率です。この表を見ながら、どの変数を補い、どの変数を予測に使うのかを決めていくことになります。その表の前に置く仮定は、前のMARの仮定と連鎖方程式で確かめました。
ところが、率の大小だけで判断できることは多くありません。5%だから補完不要、50%だから補完禁止といった境界は、研究全般に通用する形では存在しないからです。ここでは、変数の型ごとにどの補完方法が当てはまるのかを見たうえで、欠測率という数字が何を語り、何を語らないのかを整理します。
変数の型に合う補完方法
miceパッケージでは、数値変数の既定の方法は予測平均マッチング、二値因子はロジスティック回帰、順序のない多カテゴリ因子は多項ロジスティック回帰、順序因子は比例オッズモデルです。ただし、実際に選ばれた方法はmethodを読んで確認します。
ここで、データ型の指定が統計モデルへ直結します。高血圧の有無を0と1の数値で保持したままにすると、二値因子として扱った場合と既定の補完方法が異なり得ます。また、年齢階級を1、2、3という数値で入れれば、階級間を等間隔の連続的な変化として使うモデルになりやすく、カテゴリとして扱う場合とは仮定が変わります。
連続変数と正規線形モデル
正規線形モデルによる補完では、予測変数を条件にした平均を線形関係で表し、その周囲の残差分布を使って値を生成します。説明変数との関係がその形で十分に表せる場合には、モデルの内容を理解しやすい方法です。
ただし、正の値しか取り得ない検査値へ負の値が入るなど、取り得る範囲と合わない補完が生じる場合があります。その場合、生成した値を後から一律に0へ置き換えると、0に値が集中する別の分布を作ってしまいます。
対数変換した尺度で補完する方法もありますが、元の尺度での平均、対数尺度での平均、回帰係数は同じ対象ではありません。解析モデルで使う尺度と補完モデルで使う尺度の関係を、先に決める必要があります。
二値変数とカテゴリ変数
二値変数では、ロジスティック回帰から得た確率に基づいて0または1を生成します。予測確率が0.7でも、全員を1へ分類するわけではありません。分類精度を高める処理と、欠測部分の不確実性を表す処理は目的が異なります。
また、観測された「あり」が数人しかいない場合や、特定のカテゴリで全員が「なし」の場合には、分離や不安定な推定が問題になります。反復回数を増やしても、観測情報が少ないこと自体は解消しません。
多カテゴリ変数でも、細かく分けるほどモデルのパラメータが増えます。カテゴリを統合する場合には計算上の都合だけで決めず、統合後のカテゴリが研究上どのような意味を持つかを確認します。
カウントと構造的な欠測
受診回数のようなカウント変数では、整数という性質だけでなく、0が多い理由や上限も問題になります。PMMで観測値から代入すれば整数は保てますが、0が生じる仕組みまで自動的にモデル化できるわけではありません。
また、非該当による空欄は通常の欠測と区別します。たとえば、治療を受けていない人の治療開始日が空欄でも、その人に開始日を補うとデータの意味が変わります。検出限界未満の検査値も、値について範囲の情報が残っているため、理由の分からない欠測と同じ扱いにはできません。
PMMの仕組みと限界
予測平均マッチング、PMMでは、欠測者と似た予測値を持つ観測者を探し、その観測者の実測値を候補として使います。候補となる観測者はドナーと呼ばれます。
BMIが欠測した人について、モデルから27前後という予測値が得られたとします。PMMは、その人へ必ず27を入れるのではなく、予測値が近い観測者を候補として選び、その中から実測BMIを取り出します。また、予測に使う係数の不確実性も、マッチングの過程へ反映されます。
実測値から選ぶため、負のBMIのように観測範囲から外れた値を作りにくく、歪んだ分布にも使いやすい方法です。では、この仕組みはどこで行き詰まるでしょうか。
欠測者の値が観測者よりも高い領域に集中しているのに、その領域のドナーがいなければ、PMMは必要な高値を十分に補えません。また、観測者が少ないと、同じドナーが何度も選ばれ、補完値の種類が限られます。
ドナー候補数を増やすと選択の幅は広がりますが、予測値が遠い人も候補に入りやすくなります。反対に、候補を極端に絞ると特定の観測値への依存が強まります。miceのPMMでは既定の候補数は5ですが、この値をデータに関係なく最良とみなす必要はありません。
PMMは、観測値とのマッチングを使う方法でも、予測モデルを使わない方法ではありません。欠測に関わる変数や、解析で必要な非線形関係が予測モデルから抜けていれば、その影響は残ります。
補完モデルへ入れる変数
解析モデルは研究で知りたい関連や効果を推定するために組みますが、補完モデルはそれとは役割が異なります。補完モデルは、欠測部分の分布を観測情報から表現するために組むため、解析モデルには入れない補助変数も候補になります。
たとえば、現在の検査値を解析する時、過去の検査値は主解析の説明変数ではなくても、現在の欠測値を予測する情報になります。また、欠測が起きた理由と関連する受診状況も、その情報が記録されていれば補完に役立つ場合があります。
Whiteらの実務指針では、補完モデルの指定、量的・カテゴリ変数の扱い、生成数、診断などを一続きの問題として扱っています。変数選択を、解析モデルのp値だけで決めないことが出発点になります。
アウトカムを含める理由
BMIと総コレステロールの関連を推定したいのに、BMIの補完へ総コレステロールを使わなければ、観測されている両者の関連を補完部分で十分に再現できない場合があります。
欠測BMIを年齢だけで補った時、同じ年齢の中で総コレステロールが高い人と低い人の違いは、その補完モデルへ渡されません。そして、補完後にBMIと総コレステロールの関連を解析すると、補完部分で失われた関連が推定値へ影響します。
このように、研究データ中の関連を推定するために共変量を補う場合は、観測された解析アウトカムも予測に使うことが基本になります。ただし、アウトカムを予測に使うことと、アウトカム自身の欠測を補うことは別の判断で、後者は欠測理由と推定対象を踏まえて決めます。
予測モデルでの情報漏洩
将来の対象者のアウトカムを予測する場面では、そのアウトカムはまだ分かりません。したがって、学習データでの欠測処理と、新しい対象者へ使う予測手順は区別する必要があります。
また、交差検証の前に全データを使って補完モデルを学習すると、評価用データの情報が学習へ混ざり、予測性能が楽観的になる場合があります。補完を含む学習処理は、評価の分割構造に合わせて組みます。
研究上の関連を推定するためにアウトカムを補完へ使うことと、評価対象のアウトカムを予測手順へ渡すことは、目的と利用可能な情報が異なります。この区別をせずに、アウトカムを含める処理を一律に情報漏洩と呼ぶのも、一律に許されると考えるのも正確ではありません。
補助変数を増やす時の判断
欠測値との関連が強く、欠測理由の説明にもつながる補助変数は候補になります。ただし、対象者が少ないのに大量の変数を入れると、補完モデル自体が不安定になります。
ID番号、実質的な重複変数、ほとんど全員で同じ値を取る変数を、意味を確認せずに投入することは適切ではありません。また、補助変数にも欠測がある場合には、その変数をどう補うか、補わないまま予測変数として使えるかまで確認します。
欠測率と補完対象の選択
変数ごとの欠測率を並べると、欠測の少ない変数を予測因子、欠測の多い変数を補完対象に分けたくなる場合があります。しかし、MICEではBMIを補いながら、その時点のBMIを使って総コレステロールを補うなど、同じ変数が両方の役割を担います。

たとえば、BMIに20%の欠測があれば、BMIは自身の欠測部分を補う対象になります。そして、総コレステロールにも欠測があれば、BMIの観測値と現在の補完値を、総コレステロールを予測する情報として使えます。欠測のない年齢は補完不要ですが、これらの変数を補う予測因子にはなります。
したがって、その変数自身を補うか、ほかの変数の予測へ使うか、最終的な解析モデルへ入れるかは、三つに分けて判断します。解析で必要な交絡因子と、補完のためだけに使う補助変数でも、除外によって失う情報の意味が異なります。
0%・5%・20%・50%・90%で判断はどう変わるか
欠測率が5%未満なら補完不要、20%を超えたら補完必須、50%を超えたら補完禁止という、研究全般に通用する境界はありません。Madley-Dowdらは、モデルが正しく指定され、MARを置いたシミュレーションの設定では、90%の欠測を含む場合にも偏りの小さい推定を得られることを報告しています。ただし、90%まで信頼できるという上限を認定した研究ではなく、補助情報やモデルの条件を外して臨床データへ当てはめることはできません。
具体的な数値で確認するため、1,000人全員がその変数の測定対象となる場合を考えます。表1の率は説明用の設定で、可否を分ける基準値ではありません。また、「候補にできる」は、MARの根拠、補完モデル、観測情報、診断を確認した上で使える可能性があるという意味です。
| 変数の欠測率 | 観測人数/欠測人数 | 補完の位置づけと確認点 |
|---|---|---|
| 0% | 1,000人/0人 | 自身の補完は不要ですが、ほかの変数の予測因子には使えます。 |
| 2% | 980人/20人 | 多重代入の候補にできます。少数の欠測が特定の群へ集中していないか、完全ケース解析で失う人数も確認します。 |
| 5% | 950人/50人 | 5%に達したことで補完が必須になるわけではなく、5%以下でも偏りが無視できるとは限りません。 |
| 20% | 800人/200人 | 多重代入の候補にできます。観測800人が欠測200人の特徴をどこまでカバーするか、欠測に関係する情報があるかを確認します。 |
| 50% | 500人/500人 | 50%を理由に自動的に補完や予測利用を中止しません。残る500人で必要な関係を推定できるかを確認します。 |
| 80% | 200人/800人 | 方法上は候補にできますが、予測因子の数、カテゴリ別の観測数、補助情報、外挿への依存を詳しく確認します。 |
| 90% | 100人/900人 | 方法上は候補にできますが、この率だけで主解析として採用する根拠にはなりません。特に、残る100人の情報と補完仮定への依存を明記します。 |
| 100% | 0人/1,000人 | その研究データだけでは、その変数の分布や他変数との関係を通常の変数別補完モデルで推定できません。外部情報や追加の制約が必要です。 |
率から言える境界を限定すると、0%ならその変数自身の補完は不要で、100%なら通常のデータ内の情報だけによる学習ができません。そして、0%より大きく100%未満の範囲には、割合だけで一律に可否を決める境界がないため、5%、20%、50%を普遍的な採用・除外規則として使うことは適切ではありません。
同じ90%でも、対象者が100人なら観測者は10人、1,000人なら100人、10,000人なら1,000人です。また、観測100人で少数の予測因子から連続変数を補う場合と、まれなカテゴリや多数の交互作用を含むモデルを推定する場合では、情報の足り方が異なります。観測人数が十分という判断にも、全ての補完モデルに共通する人数の境界はありません。
少ない欠測率でも人数が大きく減る場合
各変数に5%ずつ欠測があり、10変数の欠測が互いに独立に生じる例では、全変数がそろう割合は$0.95^{10}$で約59.9%です。変数ごとの率は5%でも、完全ケース解析では約40.1%を失う計算になります。これは独立という設定からの計算で、実データでは欠測パターンによって人数が変わります。
また、全体の欠測率が2%でも、20人からなる特定の群に全ての欠測が集中していれば、その群の欠測率は100%になります。全体の率に加えて、治療群、施設、重症度、測定時点ごとの欠測数と、主解析で実際に残る人数を確認する理由がここにあります。
補完モデルへ含めると決めた変数に欠測があるなら、率が小さいという理由だけで未補完のまま残す必要はありません。特に予測因子として使う場合には、その欠測がほかの変数の補完を妨げないかも確認します。
多い欠測率と補助変数の採否
欠測が多い主要な交絡因子を除くと、研究上必要な交絡調整ができなくなる場合があります。補完モデルへの依存を減らそうとして変数を除外した結果、未調整交絡への依存が増えることもあるため、主要な解析変数と補助変数を同じ除外規則で扱いません。
一方、主解析には使わない補助変数で、観測者が少なく、ほかの変数の予測にもほとんど役立たなければ、追加による利益が小さい可能性があります。この場合には、その変数を含める補完と含めない補完について、主要な推定値、標準誤差、欠測情報割合、連鎖の挙動を比べます。ただし、p値が小さくなる方を選ぶ方法にはしません。
変数同士が同じ対象者でどれくらい観測されているかも重要です。BMIと検査値がそれぞれ半数で観測されていても、両方が観測された人がほとんどいなければ、両者の関連を直接学習する情報は乏しくなります。また、ある治療群でのみ検査値が全員欠測していれば、ほかの群から情報を借りるための仮定が必要になります。
PMMで不自然な値が見つからなかったとしても、観測者に似た値しか生成できていない可能性があります。欠測者の特徴が観測者の範囲から外れる場合には、分布の見た目だけで判断せず、どの観測者の情報から欠測者へ予測を広げたかを確認します。
何を分母にした欠測率か
測定対象が1,000人なのか、特定の条件を満たす300人なのかで、欠測率の分母は変わります。非該当700人を欠測として数えず、測定対象300人のうち未測定が60人なら、その測定対象内の欠測率は20%と記します。
そして、変数別の欠測率、いずれかの解析変数が欠けた人の割合、アウトカムの欠測率、推定量ごとの欠測情報割合は、異なる指標として報告します。欠測情報割合についてはRubinの統合則と合わせて後述しますが、小さい値が得られても、MARやモデルが正しいことを証明する指標にはなりません。
アウトカム自体を補完の対象に含めるかどうかは、次のアウトカムを補完してよいかで分けて考えます。
参考文献
White IR, Royston P, Wood AM. Multiple imputation using chained equations: Issues and guidance for practice. Statistics in Medicine. 2011;30(4):377-399.
Madley-Dowd P, Hughes R, Tilling K, Heron J. The proportion of missing data should not be used to guide decisions on multiple imputation. Journal of Clinical Epidemiology. 2019;110:63-73.
van Buuren S, Groothuis-Oudshoorn K. mice: Multivariate Imputation by Chained Equations in R. Journal of Statistical Software. 2011;45(3):1-67.


