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【医療統計版】MICEによる多重代入(3/5):アウトカムを補完してよいか

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「アウトカムは予測因子としてのみ含める」という説明を目にすることがあります。この説明が当てはまる状況もありますが、そのまま機械的に移すと、補完が回らなくなったり、必要な情報を捨てたりします。補完方法と変数の入れ方は前の補完方法の選択と欠測率の読み方で整理したので、ここではアウトカムの扱いに絞ります。

アウトカムを共変量の補完に使うことと、アウトカム自身の欠測を補うことは、別の判断です。ここでは両者を分けたうえで、補完後に一部の対象者を解析から除くMIDや、予測モデルでの情報漏洩との違いを整理し、最後にpredictorMatrixで指定が意図どおりになっているかを確かめます。

アウトカムの予測利用と補完

総コレステロールをアウトカムとする回帰分析でも、BMIの欠測を補う時には、総コレステロールが予測因子になります。解析で説明したい変数と、補完の途中で予測に使う変数は役割が異なり、アウトカムを使って共変量を補うことと、アウトカム自身を補うことは分けて記述します。

100人中イベント10人、非イベント80人、未確認10人の場合に、未確認者を全て非イベントとした10.0%、観測者90人だけの11.1%、全てイベントとした20.0%を並べた棒グラフ。
図1 未確認の10人を両極端に置いた場合の範囲です。観測者だけで計算した11.1%は、この範囲の中の1点にすぎません。追加の仮定を置かずに言えるのは、10.0%から20.0%までという幅です。

観測されなかった値と臨床上の記録

受診できなかった対象者の血液検査値を補完しても、その日に採血して値を確認したことにはなりません。多重代入では、観測情報と仮定に基づく複数の候補値を解析用に生成し、集団の平均や群間差、回帰係数の推定へ反映します。

また、二値アウトカムでも、補完データセットのある1組に「イベントあり」が入ったからといって、その対象者でイベントが発生したと確認できたわけではありません。補完した値を診療録の確認済み所見や、判定委員会が確定したイベントへ置き換える使い方はしません。そして、元の観測値と欠測の記録を保存し、解析用データでも実測と補完を区別できる状態にします。

この区別は共変量の補完にも当てはまります。また、Rubinの統合則は指定した補完モデルの下での不確実性を扱いますが、欠測機構やアウトカムの定義を誤ったことまで自動的に補正する仕組みではありません。

アウトカムが全員で観測されている場合

総コレステロールが全員で観測され、BMIだけに欠測があるなら、総コレステロール自身は補完せず、BMIを補う予測因子として使います。「アウトカムは予測因子としてのみ含める」という説明は、この状況には当てはまります。

このとき、miceでは、完全に観測された総コレステロールの補完方法は空文字になります。ただし、その列まで予測から除くと、BMIと総コレステロールの関連を補完部分で十分に保てない場合があります。補完をしない指定と、予測へ使わない指定は異なります。

アウトカムにも欠測がある場合

最終時点の検査値が未測定でも、ベースラインや中間時点の検査値が残っている場合があります。このような情報で欠測者と観測者の違いを説明できると仮定し、モデルにもその関係を反映できれば、欠測アウトカムも多重代入し、その値を含めた解析から推定値を統合する方法が候補になります。

そのため、ここで必要なのは、「アウトカムなら補完可能」という説明ではなく、どの値を推定対象として定義し、何を条件にMARを置くかという説明です。観測済みの変数を条件にしても、未観測の最終値によって欠測確率が異なるなら、その差はMARだけでは扱えないため、MNARを想定した感度分析が必要になります。

したがって、アウトカムの補完を一律に禁止する説明も、欠測アウトカムを常に補う説明も正確ではありません。測定値、二値イベント、反復測定のどれでも、研究目的と欠測理由、モデルが表す対象に合わせて方法を決めます。

アウトカムだけが欠測する回帰分析

説明変数$X$は全員で観測され、アウトカム$Y$だけが欠測している場合、常に$Y$を補えば精度が上がるとは限りません。たとえば、$X$を条件にすれば$Y$の観測・欠測が$Y$へ依存せず、条件付き回帰モデルが正しく、推定に必要な$X$の範囲に観測者が残る場合には、$Y$の観測者だけから条件付き回帰係数を推定できることがあります。

実際、通常の条件付き尤度で、未観測の$Y$についてその全範囲で積分すると、$\int f(y\mid X;\beta)\,dy=1$となり、その対象者から回帰係数$\beta$への直接の情報が加わりません。この設定で、解析モデルと同じ情報だけを使って$Y$を補っても、新しい測定情報が増えるわけではなく、有限回の補完による計算上の揺れを加える場合があります。

ただし、これは全員分の平均や割合を推定する問題とは区別します。また、解析モデルには入れない過去の測定値などに追加情報があれば、その情報を使った多重代入に利益が生じることもあります。「アウトカム観測者だけでよい」という説明を、推定対象や利用する情報を変えてもそのまま使うことはできません。

死亡後の測定値と治療中止後の欠測

12か月後の生活の質を測る研究で、それより前に死亡した対象者について、実際の経過での12か月時点の生活の質は定義できません。存命だったものの未回答だった人とは状況が異なるため、両者を通常の未測定としてまとめる前に、死亡を研究の推定対象へどう反映するかを決めます。

この区別について、E9(R1) STATISTICAL PRINCIPLES FOR CLINICAL TRIALSでは、死亡や治療中止などの中間事象の扱いを、推定したい治療効果と結び付けて整理しています。死亡を含む複合アウトカムや、死亡しなかった仮想的な状況を対象にする方法は、異なる問いに答えます。後者を採る場合も、通常の欠測値補完と同じ意味にはならず、その仮想的な状況を支える追加仮定が必要です。

そして、治療中止についても、中止した事実だけでアウトカムが欠測になるわけではありません。中止後の経過も含む効果を知りたいなら、その後の測定を収集することに意味があり、未収集となった部分の扱いを別に決めます。補完で収集不足を埋め合わせることだけを前提にせず、まず追跡や測定を継続できる研究手順を整えます。

なお、打ち切られた生存時間には、少なくとも最終確認時点まではイベントが起きていないという情報があります。この扱いは、後述する生存時間解析の節で、通常の欠測アウトカムと区別します。

補完後に解析から除くMID

アウトカムと共変量の両方に欠測がある場合、補完の途中ではアウトカムも補い、最終解析では元からアウトカムが観測されていた対象者だけを使う方法があります。multiple imputation, then deletion、略してMIDと呼ばれ、共変量などに残る情報は補完段階で使いながら、補完アウトカムは最終的な回帰分析へ含めません。

この手順は、アウトカムを一切補完しない設定とは異なります。また、補完を始める前にアウトカム未観測者を全て除くと、その人たちに残る共変量の情報を補完段階でも使わないため、同じ手順にはなりません。

ここで、補助変数を使えばMIDも常に妥当になる、と考えるのは注意が必要です。Sullivanらのシミュレーションでは、補助変数がアウトカムとその欠測の両方に関連する設定で、MIDの回帰係数に大きな偏りが生じました。補助変数が欠測に関連しない設定でも、通常の多重代入の方が精度の高い場合が多く、違いを単なる好みで選べる方法とは扱っていません。

具体的には、補完モデルへ過去の検査値$Z$を加えることで、$X$と$Z$を条件にしたMARが成り立つと仮定しても、$Z$を含めない解析モデルで$X$だけを条件にすれば、アウトカム観測者の選別が無視できるとは限りません。補完に使う情報と最終解析の条件が異なることを踏まえずに、補完アウトカムを除くだけでは、元の集団の回帰関係を保てない場合があります。

私なら、MIDを選ぶ前に、補完アウトカムを含めた解析と含めない解析の両方を出し、推定値と信頼区間がどれくらい動くかを並べて見ます。動きが小さければどちらでも説明できますし、大きければ、その差を生んでいる仮定を本文で説明する必要が出てきます。

したがって、臨床上の記録と補完値を区別することは大切ですが、その区別だけを理由にMIDを標準手順へ置くことは適切ではありません。観測アウトカムだけを使う解析が何を推定できるかを確認し、補助情報を利用した通常の多重代入などと比べて選びます。

補完しない方針でも必要になる欠測への対処

アウトカムを補完しないと決めても、未観測者を除くことで生じる選別が自動的に消えるわけではありません。反復測定なら観測された測定を使う尤度法、観測確率をモデル化できるなら逆確率重み付けなども候補になりますが、それぞれにモデルや欠測機構の仮定があります。

また、少数の欠測でも、まれなイベントの結論を左右する場合があります。全員について同じ期間内のイベント有無を定義できる100人の研究で、観測されたイベントが10人、非イベントが80人、未確認が10人なら、未確認者が全員非イベントの場合の全体割合は10%、全員イベントの場合は20%です。観測者だけの割合10/90、約11.1%とは分けて読みます。

ただし、この10〜20%は、追加仮定を置かずに未確認者を両極端へ置いた標本内の範囲で、95%信頼区間ではありません。そして、打ち切りを伴う生存割合の計算でもありません。欠測率10%という数字だけを小さいと評価せず、主要な結果がどの程度動き得るかを数値で確かめるための例です。

predictorMatrixの読み方

miceのpredictorMatrixでは、通常、行が補完対象、列が予測に使う変数を表します。行がBMI、列が総コレステロールの要素を1にすると、BMIを補完するモデルで総コレステロールを使います。対角要素は通常0です。

4変数のpredictorMatrixを表にした図。行が補完対象の変数、列が予測に使う変数で、欠測のない年齢の行は全て0だが、列としては他の変数の補完に使われている。
図2 行がその変数を補完するモデル、列がそのモデルで使う予測変数です。欠測のない年齢は行が全て0ですが、列としては他の3変数の補完に使われています。補完しない指定と、予測に使わない指定は別物です。

そして、実際の解析では、ここで迷うことがあります。行と列を逆に読むと、意図した補完モデルと異なる設定になります。そして、実行後のエラーが出ない場合もあるため、行ごとに「この変数を何で補っているか」と文章に直して確認すると、指定の意味を追いやすくなります。

もう一つ、methodを空文字にする操作は、その変数を補完しないという指定です。ほかの変数の予測に使わないという指定とは異なります。たとえば、全員で観測された年齢は補完不要でも、BMIや検査値を補う予測変数として使えます。

逆に、総コレステロールに欠測が残るのに、そのmethodだけを空文字にしてBMIの予測因子へ残すと、総コレステロールが欠けた対象者のBMIを補えず、欠測が残る場合があります。したがって、「アウトカムは予測因子のみ」という設定を、アウトカムが欠測するデータへ機械的に移すことはできません。

ここで、その変数の列を全て0にすれば計算上の問題を避けられる場合はありますが、アウトカムが持つ予測情報も失われます。MIDを選ぶなら補完段階ではアウトカムも扱い、観測者に限定した解析を選ぶなら、その選別が推定対象にどう関わるかを先に判断します。また、既定の1変数1ブロックでは行が補完対象変数に対応しますが、複数変数を一度に補うブロックを指定した場合は、行がそのブロックに対応します。

さらに、whereはどのセルを補完するかを制御するための指定ですが、非該当セルを補完対象から外すだけで、複雑な構造的欠測の問題が全て解決するわけではありません。解析対象と変数の定義が先に必要です。

交互作用と非線形項の整合性

補完モデルの形が効いてくる場面もあります。BMIとアウトカムの関係が直線ではなく曲線で、解析モデルへBMIの二乗項を入れる場合を考えます。補完モデルがBMIとアウトカムの関係を直線だけで表していると、補完部分では解析したい曲線が弱まる可能性があります。

同様に、治療によってBMIとアウトカムの関係が異なると想定して交互作用項を解析へ入れるなら、その違いを補完でも表現する必要があります。主解析にだけ交互作用を追加しても、補完の段階で失われた関係が自動的に戻るわけではありません。

パッシブ代入の役割

BMIとBMIの二乗を別々の変数として独立に補うと、補完後に「二乗列の値がBMIの二乗と一致しない」という矛盾が生じ得ます。パッシブ代入は、元の変数から派生変数を再計算し、このような数式上の関係を保つために使います。

ただし、値の関係を保つことと、解析モデルとの統計的な整合性を保つことは同じではありません。BMIを補うモデルが必要な非線形関係を表せていなければ、そのBMIを二乗しても問題は残ります。

そこで、BartlettらのSMC-FCSは、解析モデルとの整合性を意識して欠測共変量を補う方法です。交互作用や非線形項が研究の中心なら、通常のFCSとパッシブ代入だけで十分かを確認し、解析モデルに合わせた方法を選びます。

条件付きモデル同士の関係

MICEでは変数ごとの条件付き分布を指定しますが、それら全てが同じ同時分布から導かれるとは限りません。この問題は、条件付きモデルの互換性と呼ばれます。

そして、一部の条件では理論的な性質が分かっていても、任意の補完方法を組み合わせれば常に同じ保証が得られるわけではありません。したがって、計算が終了したことや連鎖が安定して見えることだけで、補完モデルの正しさを判断することはできません。

ここまでの判断をコードと出力で確かめる手順は、次のRでの実行とRubinの統合則に続きます。

参考文献

von Hippel PT. Regression with missing Ys: An improved strategy for analyzing multiply imputed data. Sociological Methodology. 2007;37(1):83-117.

Sullivan TR, Salter AB, Ryan P, Lee KJ. Bias and precision of the “multiple imputation, then deletion” method for dealing with missing outcome data. American Journal of Epidemiology. 2015;182(6):528-534.

Bartlett JW, Seaman SR, White IR, Carpenter JR. Multiple imputation of covariates by fully conditional specification: Accommodating the substantive model. Statistical Methods in Medical Research. 2015;24(4):462-487.

International Council for Harmonisation. Addendum on estimands and sensitivity analysis in clinical trials to the guideline on statistical principles for clinical trials E9(R1). 2019.

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