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【医療統計版】推定対象と中間事象:治療中止後のイベントをどう扱うか

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OSやPFSを評価する研究では、割り付けた治療を中止した後に死亡や増悪が観察されることがありますが、そのイベントを解析に残すのか、中止時点で打ち切るのかによって、同じ「PFSの群間比較」という表現でも推定される治療効果は同じとは限りません。そのため、治療中止後を含む効果を知りたいのか、それとも中止が起きなかった条件での効果を知りたいのかを先に決める必要があります。この研究目的と解析をつなぐ枠組みが、推定対象(estimand)です。

この記事では、推定対象を構成する属性と中間事象への対応を区別し、中間事象を扱う5つの方針によって知りたい治療効果がどう変わるかを説明します。また、治療中止時の一律打ち切りが推定値を動かす例をRで確認し、追跡、打ち切り規則、主解析、感度分析を同じ推定対象へ揃える考え方を整理します。

打ち切り前に推定対象を定める

時間‐イベントデータの基本的な打ち切りとリスク集合は、打ち切りと左切断で扱いました。ここでは、割り付け後に起きてアウトカムの観測や解釈へ影響する出来事を中間事象と呼びます。治療中止、救済治療、治療切替は典型例です。死亡はPFSではイベントに組み込めますが、別のアウトカムでは中間事象になり得るため、名称だけで役割は決まりません。

また、ICH E9(R1)(2019)は、推定対象を対象集団、関心のある治療条件、変数、集団レベルの要約、中間事象への対応という属性で明確にするよう求めています。記号でひとまとまりにすると、次のように表せます。

$$
\mathcal{E}=(\mathcal{P},\mathcal{T},\mathcal{V},\mathcal{S},\mathcal{I}).\tag{1}
$$

ここで、$\mathcal{P}$は対象集団、$\mathcal{T}$は関心のある治療条件、$\mathcal{V}$はアウトカム変数、$\mathcal{S}$は群間差を表す集団レベルの要約、$\mathcal{I}$は中間事象への対応です。この5属性を一緒に定めて初めて、「何の治療効果か」が解析可能な形になります。

ただし、打ち切り規則は推定対象そのものではありません。打ち切りは観測データを解析へ渡す規則であり、その背後にある研究目的と仮定まで自動では決めてくれないからです。

5つの対応で推定対象が変わる

ICH E9(R1)(2019)が整理した対応のうち、治療方針に基づく対応(treatment policy)では、中間事象が起きたかどうかにかかわらず、割り付けた治療方針の効果を対象にします。この対応は治療中止後もイベントを追跡する設計と結びつきやすいですが、「中止を無視する」という意味ではなく、中止を含む実際の経過の下で比較するという意味です。

一方、仮想的な条件を設定する対応(hypothetical)は、救済治療が使われなかった、あるいは治療中止が起きなかった条件での効果を対象にします。ただし、中止後の観測値を捨てれば自動的に推定できるわけではなく、未観測の転帰を推定するモデルと、そのモデルを支える仮定が要ります。

中間事象を複合変数に含める対応(composite)では、中間事象をアウトカムの一部に組み込みます。たとえば、死亡または増悪の早い方をイベントとするPFSでは、死亡が複合イベントの構成要素です。また、治療中の値を対象とする対応(while on treatment)は治療継続中の効果に関心を限定しますが、治療中止までイベントがなかった人を単純に非イベントと扱う説明では足りず、どの時間範囲の変数を比較するのかを明示する必要があります。

主要層を対象とする対応(principal stratum)が扱うのは、どちらの治療を割り付けても特定の中間事象の状態になる潜在的な部分集団です。しかし、実際に中止した人と継続した人を分けるだけでは割り付け後の選択が入るため、単純な中止者・継続者の部分集団解析を主要層に基づく解析と呼ぶことは適切ではありません。

治療中止時の一律打ち切り

治療群で高リスク者ほど早く中止し、その時点で追跡を切ると、イベントを起こしやすい人がリスク集合から選択的に消えるため、通常の独立打ち切りの仮定が崩れます。これは情報的打ち切りの問題です。

中止時打ち切りを一律に選ぶことは推奨しません。治療方針に基づく対応で必要になる中止後イベントを失ううえ、打ち切りが将来のイベントリスクと関係すれば、解析値まで動き得るためです。また、仮想的な条件を設定する場合も、研究目的、欠測データに対する仮定、推定法、感度分析を一組として事前に定めます。

さらに、追跡不能と治療中止も分けて扱います。薬剤を中止しても転帰を確認できる人がいる一方、治療を続けていても来院が途絶えれば転帰は分かりません。この2つを同じ「中止」として処理すると、臨床経過への対応と欠測への対応が混ざります。

解析手法より先にそろえる項目

私なら、解析計画書のCoxモデルの式より先に、中間事象ごとの対応とデータ収集を確認します。中止後を含む効果が目的なら、中止後も同じアウトカムを追える手順が必要であり、データを収集していなければ、解析段階で治療方針に基づく対応に必要な情報を取り戻せません。

そのうえで、変数がOSなのかPFSなのか、要約がハザード比なのか特定時点の生存割合差なのかを決めます。Cox比例ハザードモデルは推定方法の候補であって、推定対象を代わりに決めるものではありません。

また、主解析と感度分析にも同じ線を通します。感度分析は別の研究目的に対応する解析を並べることではなく、同じ推定対象について主要な仮定を変えた時に結論がどの程度動くかを見るものです。この組み立ては、生存時間解析における感度分析にもつながります。

ICH E9(R1)が変えた記載順序

ICH E9(R1)(2019)は、試験目的、推定対象、主たる推定法、感度分析を整合させる枠組みを提示しました。また、Akachaら(2017)は、従来の「どの解析セットとモデルを使うか」から入りがちな議論を、どの治療効果を推定したいかへ広げており、手法名だけを先に置かない点が重要です。

時間‐イベントアウトカムでは、中間事象と打ち切りが密接なので説明が特に難しくなります。Rufibach(2019)は、推定対象、解析方針、推定量を分けて扱い、ハザード比だけでなく絶対的な要約も含めて研究目的との対応を論じています。また、Siegelら(2024)は腫瘍領域の時間‐イベント型の推定対象と追跡不能を扱い、中間事象への対応と欠測の扱いを区別しています。

そのため、論文ではエンドポイント名と打ち切り規則だけで済ませず、対象集団、関心のある治療条件、変数、集団レベルの要約、中間事象への対応を読み手が追えるようにします。主要層を対象とする場合は、潜在的な層をどう定義し、どの識別仮定で推定するかが追加で必要ですが、本稿ではその推定法の詳細までは扱いません。

2,400例の生成データで確認する

対照群1,200例、治療群1,200例からなる、2,400例のランダムに生成したデータセットを用意しました。追跡期間は24か月で、設定した治療ハザード比は0.65、高リスク者のイベントハザード比は2.4です。また、高リスク者ほど中止しやすく、その傾向が治療群で強くなるようにしましたが、イベントハザード自体は中止後も変えず、打ち切りによる選択の影響を見ます。

set.seed(42)
library(survival)
n <- 2400
treatment <- sample(rep(0:1, each = n / 2))
high_risk <- rbinom(n, size = 1, prob = 0.35)
discontinuation_hazard <- 0.018 * exp(log(2.8) * high_risk +
  log(1.15) * treatment + log(2.2) * high_risk * treatment)
discontinuation_time <- rexp(n, rate = discontinuation_hazard)
event_hazard <- 0.055 * 2.4^high_risk * 0.65^treatment
event_time <- rexp(n, rate = event_hazard)
trial_data <- data.frame(treatment, high_risk, event_time,
  discontinuation_time)
trial_data$tp_time <- pmin(event_time, 24)
trial_data$tp_status <- as.integer(event_time <= 24)
trial_data$censor_time <- pmin(event_time, discontinuation_time, 24)
trial_data$censor_status <- as.integer(event_time <=
  pmin(discontinuation_time, 24))
tp_fit <- coxph(Surv(tp_time, tp_status) ~ treatment,
  data = trial_data, ties = "efron")
censor_fit <- coxph(Surv(censor_time, censor_status) ~ treatment,
  data = trial_data, ties = "efron")
exp(cbind(HR = coef(tp_fit), confint(tp_fit)))
exp(cbind(HR = coef(censor_fit), confint(censor_fit)))
#> treatment  0.683  0.622  0.750
#> treatment  0.622  0.557  0.694

中止後も追跡した解析では1,784イベントが入り、ハザード比は0.683、95%信頼区間は0.622〜0.750でした。一方、中止時に打ち切るとイベントは1,332へ減り、ハザード比は0.622、95%信頼区間は0.557〜0.694です。ここで、0.622の方が設定値0.65に近いと評価するのは読み違いです。この1回の生成結果で近さを競うのではなく、中止時打ち切りによって観測されるリスク集合が変わり、独立打ち切りの仮定が崩れたため、同じ効果の推定が偏り得る例として読みます。つまり、単なる中止時打ち切りが、別の推定対象を自動的に定義して推定するわけではありません。

tp_curve <- survfit(Surv(tp_time, tp_status) ~ treatment,
  data = trial_data)
censor_curve <- survfit(Surv(censor_time, censor_status) ~ treatment,
  data = trial_data)
par(mfrow = c(1, 2))
plot(tp_curve, col = c("grey30", "blue"), lwd = 2,
  xlab = "Months", ylab = "Event-free probability",
  main = "Follow after discontinuation", mark.time = FALSE, cex.main = 0.72)
plot(censor_curve, col = c("grey30", "red"), lwd = 2,
  xlab = "Months", ylab = "Event-free probability",
  main = "Censor at discontinuation", mark.time = FALSE, cex.main = 0.72)
治療中止後も追跡した曲線と中止時に打ち切った曲線を左右に配置し、後者で群間の開きが大きく見えるKaplan–Meier図
図1 左は治療中止後もイベントを追跡し、右は中止時に打ち切った解析です。この生成データでは、右の曲線で治療群の高リスク者が選択的にリスク集合から抜け、群間差が大きく見えます。

イベント前の中止は対照群256例(21.3%)、治療群458例(38.2%)で、中止後かつ24か月以内に起きた452イベントが打ち切り解析から外れました。中止後追跡のハザード比に比べて差は-0.061、相対変化は-8.9%です。この方向や大きさは今回の生成機構に依存し、治療中止時の打ち切りが常に治療効果を大きく見せるという一般則ではありません。

追跡と感度分析を推定対象へ戻す

研究計画時に中間事象を列挙し、それぞれにどの対応を取るかを定め、必要な中止後データを収集します。そのうえで、主たる推定法と感度分析が同じ推定対象を向いているかを確認します。

治療中止後を追うか迷った時は、まず臨床的に知りたい効果を検討します。「割り付けた治療方針の下での24か月までのイベントを比べる」のか、「中止が起きなかった条件でのイベントを比べる」のかによって、必要なデータも仮定も異なります。

前回の必要イベント数では、検出力を支えるイベント数を扱いました。今回の例では中止時打ち切りで452イベントが外れましたが、問題は情報量の減少だけではありません。誰のイベントが外れたかによってリスク集合が変わるため、推定対象と仮定の両方へ戻って判断する必要があります。

実際の研究では、中間事象の種類、収集できる中止後データ、欠測機構、報告したい要約を一緒に見ることになります。自分の研究でどの推定対象と感度分析を組み合わせるか判断が残る場合は、Dr.データサイエンスで解析方針をご相談いただけます。

参考文献

  1. International Council for Harmonisation. ICH E9(R1) Addendum on Estimands and Sensitivity Analysis in Clinical Trials. 2019.
  2. Akacha M, Bretz F, Ruberg S. Estimands in clinical trials—broadening the perspective. Statistics in Medicine. 2017;36(1):5-19.
  3. Rufibach K. Treatment effect quantification for time-to-event endpoints—estimands, analysis strategies, and beyond. Pharmaceutical Statistics. 2019;18(2):145-165.
  4. Mitroiu M, Teerenstra S, Oude Rengerink K, Pétavy F, Roes KCB. Estimation of treatment effects in short-term depression studies: an evaluation based on the ICH E9(R1) estimands framework. Pharmaceutical Statistics. 2022;21(5):1037-1057.
  5. Siegel JM, Weber HJ, Englert S, Liu F, Casey M; Pharmaceutical Industry Working Group on Estimands in Oncology. Time-to-event estimands and loss to follow-up in oncology in light of the estimands guidance. Pharmaceutical Statistics. 2024;23(5):709-727.

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