「新しい治療でHbA1cは改善するか」という臨床疑問では、誰を対象にするか、何と比べるかに加え、改善を平均値で表すのか、一定量低下した人の割合で表すのか、12週と24週のどちらで評価するのかによって答えが変わるため、そのままでは解析結果が一つに定まりません。そこで、PICOを使って曖昧さを見つけ、研究で答えられる形へ整えます。
PICOの4要素が決める研究の骨格
Richardsonら(1995)が示したwell-built clinical questionでは、Pはpatientまたはproblem、Iはintervention、Cはcomparison、Oはoutcomeを表します。Pを「患者」とだけ読むと対象疾患や重症度、組入れ条件が抜けやすいため、「問題または対象集団」と捉える方が研究条件を記述しやすくなります。
この4要素を糖尿病治療の比較に当てはめるなら、Pは組入れ時のHbA1cが7.2〜9.8の対象者、Iは新しい治療、Cは対照治療、OはHbA1cです。ただし、Oが「HbA1c」だけでは、測定変数の名前を置いたにすぎず、解析可能な定義には届いていません。
また、Pには疾患名だけでなく、診断基準、重症度、併用治療、除外条件、研究を行う診療場面が含まれます。対象を広く書けば組み入れやすくなる一方、治療効果が異なる集団を一つにまとめる可能性があるため、結果を適用したい患者集団と実際の組入れ条件が対応しているかを確認します。
比較対照Cも「通常治療」とだけ書くと、施設や時期によって内容が変わります。薬剤名、用量、治療変更の許容範囲、併用できる治療を定めることで、介入Iとの差が何に由来するのかを説明でき、無治療との比較なのか現在の標準治療への上乗せなのかも区別できます。
ここが、PICOを単なる頭文字の穴埋めにしないための分かれ目です。
良い臨床疑問は答えの単位まで決める
同じ240人を対象にしても、12週の平均値を比べる解析と、24週の平均値を比べる解析では別の結果が返ります。さらに「0.5ポイント以上低下した人」という二値のアウトカムへ変えれば、効果の単位はHbA1cのポイント差から割合の差へ変わります。
そこで、アウトカムOには測定変数$Y$だけでなく、その要約方法$s$と評価時点$t$を含めておくと、曖昧さを見つけやすくなります。
$$O=(Y,s,t)\tag{1}$$
式(1)は、アウトカムを「何を測るか」「どの量で群を比べるか」「いつ評価するか」の組として定義しており、エンドポイントの定義が変われば同じ研究データから得る数値も変わります。
例えば「12週時点のHbA1cを、ベースライン値で調整した群間平均差として評価する」と書けば、$Y$はHbA1c、$s$は調整平均差、$t$は12週です。この粒度まで決まっていれば、解析担当者が別々の合理的な解釈を選んで異なる答えを出す余地が小さくなります。
比較の向きが数値の意味を固定する
アウトカムを決めても、「介入群−対照群」か「対照群−介入群」かが書かれていなければ、符号の読み方が反転します。12週の連続アウトカムについて介入群−対照群を採用するなら、関心のある群間差は次の形です。
$$\Delta_{12}=\mu_{I,12}-\mu_{C,12}\tag{2}$$
式(2)の$\mu_{I,12}$と$\mu_{C,12}$は、それぞれ介入群と対照群における12週のHbA1c平均であり、$\Delta_{12}$が負なら介入群の平均が低い向きを表します。
一方、0.5ポイント以上低下した人の割合を比べる場合、介入群−対照群のリスク差が正なら介入群で該当者が多い向きです。数値の符号だけを見て有利、不利を判断せず、アウトカムの定義と差を取る順序を一緒に読む必要があります。
PICOから解析計画へ橋を架ける
PICOが整っていても、解析方法が自動的に一つへ決まるとは限りません。例えば12週のHbA1cには、12週値の単純な群間差、ベースラインからの変化量の群間差、ベースライン値で調整した共分散分析という候補があり、どの量を主要な答えにするかは研究計画で固定する必要があります。
評価時点と要約方法を結果の観察後に選ぶと、合理的に見える候補の中から帰無値より遠い結果を選べてしまい、報告する効果が大きい方向へ偏るため、「HbA1cが改善するか」という表現のまま解析を始めることは推奨しません。
さらに、治療中止や救済治療などが起きた後の値をどう扱うかは、PICOの4要素だけでは定まりません。これらの中間事象を含めて効果を定義する場合は、推定対象と中間事象の関係まで解析計画に加える必要があります。
主要なアウトカムと評価時点を複数置く場合は、それぞれを同じ重要度で検定するのか、順序を決めるのかによって、有意水準の扱いも変わります。PICOで候補を具体化した後に主要評価項目を一つ定め、副次評価項目との区別と検定の順序を解析計画へ移すことで、結果を見た後の選択を避けられます。
また、p値はこの曖昧さを解消しません。主要アウトカムを事前に特定した上で、効果量と95%信頼区間を読み、医学的に意味のある差かどうかは別の根拠と照らして判断します。
診断や予後へ機械的に当てはめない
治療Aと治療Bを比べる疑問ではIとCが自然に置けますが、診断精度、予後、病因を扱う疑問では同じ形が窮屈になることがあります。Huangら(2006)がプライマリケアの臨床疑問59件を調べたところ、PICOの4要素を全て含むものは2件で、PICOは特に治療に関する疑問を表しやすいと報告されました。
この結果を理由にPICOを捨てる必要はありませんが、空欄を埋めるためだけに不自然な介入や比較を作る方法は適切ではありません。診断研究なら評価する検査、参照基準、対象集団、精度指標が答えを定め、予後研究なら対象集団、予測因子、転帰、期間が中心になります。
つまり、PICOは研究疑問の型を点検する道具であり、全ての研究目的を同じ文法へ押し込む規則ではありません。
PICOと文献検索を同じ課題にしない
Villanuevaら(2001)は39人を対象とした無作為化比較試験で、対象、介入、比較、アウトカムを明示する説明と例示によって質問の具体性が改善するかを調べました。小規模な研究ではありますが、PICOを使って疑問を具体化する教育的な効果を支持する一次資料です。
ただし、具体化した4要素を全てPubMedの検索式へ入れれば検索性能も上がる、と考えるのは早計です。Schardtら(2007)の31人によるパイロット試験ではPICO群の適合率が高い傾向にあったものの統計学的な差は示されず、Hoogendamら(2012)の22人、434検索式のクロスオーバー試験でも、5分間の検索における適合率と再現率に統計学的な差はありませんでした。
さらに、EriksenとFrandsen(2018)は2,163件から3研究を採用した系統的レビューで、PICOを検索方針に使う効果を判断する研究は少ないと結論づけています。質問を構造化する作業と検索語を設計する作業は分け、検索では比較やアウトカムをあえて入れない方が拾いやすい場面もあります。
240人のデータで評価時点の差を見る
対照群120人、介入群120人からなるランダムに生成したデータセットを用意し、組入れ時のHbA1cを7.2〜9.8、評価時点を12週と24週に設定しました。データ生成時の介入効果は12週で−0.4ポイント、24週で−0.2ポイントとし、同じ対象者でも評価時点によって答えが変わる状況を作っています。
set.seed(42)
n_per_group <- 120L
treatment <- sample(rep(c(0L, 1L), each = n_per_group))
baseline_hba1c <- runif(2L * n_per_group, min = 7.2, max = 9.8)
person_effect <- rnorm(2L * n_per_group, mean = 0, sd = 0.35)
hba1c_12 <- baseline_hba1c - 0.20 - 0.40 * treatment +
person_effect + rnorm(2L * n_per_group, mean = 0, sd = 0.35)
hba1c_24 <- baseline_hba1c - 0.10 - 0.20 * treatment +
person_effect + rnorm(2L * n_per_group, mean = 0, sd = 0.45)
study_data <- data.frame(group = factor(treatment), baseline_hba1c,
hba1c_12, hba1c_24)
このデータにベースラインHbA1cで調整した共分散分析を当てはめると、介入群−対照群の調整平均差は12週で−0.431ポイント(95%信頼区間−0.560〜−0.301)、24週で−0.239ポイント(95%信頼区間−0.398〜−0.080)でした。
fit_12 <- lm(hba1c_12 ~ group + baseline_hba1c, data = study_data)
fit_24 <- lm(hba1c_24 ~ group + baseline_hba1c, data = study_data)
estimate <- c(coef(fit_12)["group1"], coef(fit_24)["group1"])
interval <- rbind(confint(fit_12, parm = "group1"),
confint(fit_24, parm = "group1"))
round(cbind(estimate, interval), 3)
#> estimate 2.5 % 97.5 %
#> group1 -0.431 -0.560 -0.301
#> group1 -0.239 -0.398 -0.080
読み方の要点は、負の値が介入群でHbA1cが低い向きを表し、12週と24週では推定した差が同じではないことです。両方の95%信頼区間が0をまたがないという結果だけから評価時点を選ぶのではなく、どの時点の効果が研究目的に対応するかを結果を見る前に決めます。

もう一つ、12週で0.5ポイント以上低下した人をアウトカムにすると、該当者は対照群30人、介入群73人で、割合の差は0.358(95%信頼区間0.242〜0.475)でした。この値は平均差と競合する結果ではなく、別に定義したOへ答えた結果です。
この二値化では「0.5ポイント」という境界の両側にいる対象者を別群として扱うため、平均差とは異なる情報が残ります。したがって、平均値と達成割合のどちらが臨床疑問に合うかを先に決め、両方を示す場合も、主要な答えと補足的な答えを入れ替えません。
結果を見る前に残す一文
良い臨床疑問は、PICOの4語が入っている文章ではなく、別の解析者が読んでも主要な比較を同じように組み立てられる文章です。「組入れ時HbA1cが7.2〜9.8の対象者で、新しい治療は対照治療と比べ、12週時点のHbA1cをベースライン調整した平均でどれだけ変えるか」まで書けば、対象、比較、変数、要約方法、時点、差の向きがつながります。
実際の研究では、欠測値への対応や解析対象集団など、PICOだけでは決まらない事項も残ります。それでも、アウトカムの定義と評価時点を臨床疑問の段階で固定しておけば、結果を見てから都合のよい答えを選ぶ余地を減らせます。
また、PICOから解析可能な主要評価項目へ落とし込む際には、対象集団、評価時点、要約方法、群間差の向きが一つの文章として対応しているかを確認します。その上で、中間事象、欠測値、解析対象集団の扱いを加えると、臨床疑問と統計モデルの間に残る選択肢を明示できます。
参考文献
- Richardson WS, Wilson MC, Nishikawa J, Hayward RS. The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP J Club. 1995;123(3):A12-3.
- Villanueva EV, Burrows EA, Fennessy PA, Rajendran M, Anderson JN. Improving question formulation for use in evidence appraisal in a tertiary care setting: a randomised controlled trial. BMC Med Inform Decis Mak. 2001;1:4.
- Schardt C, Adams MB, Owens T, Keitz S, Fontelo P. Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions. BMC Med Inform Decis Mak. 2007;7:16.
- Huang X, Lin J, Demner-Fushman D. Evaluation of PICO as a knowledge representation for clinical questions. AMIA Annu Symp Proc. 2006;2006:359-363.
- Hoogendam A, de Vries Robbé PF, Overbeke AJPM. Comparing patient characteristics, type of intervention, control, and outcome queries with unguided searching: a randomized controlled crossover trial. J Med Libr Assoc. 2012;100(2):121-126.
- Eriksen MB, Frandsen TF. The impact of patient, intervention, comparison, outcome as a search strategy tool on literature search quality: a systematic review. J Med Libr Assoc. 2018;106(4):420-431.


