検診で見つかった人の診断後5年生存率が症状を契機に診断された人より高くても、その差には、診断日が早まった時間、進行の遅い病変が選ばれやすい性質、無検診なら生涯に症状を起こさなかった病変まで診断される影響が混ざります。そのため、死亡時点を変えずに生存期間だけを長く見せる仕組みと、診断される集団そのものを変える仕組みを分けることが、検診評価の基礎になります。
診断日を起点にする前提
診断後生存は、診断日から死亡または追跡終了までの時間です。検診群と症状発見群でこの量を比べると、同じ人が同じ日に死亡する場合でも、検診によって診断日だけが早まれば検診群の生存期間は長くなります。
この関係を、症状が出て診断されてから死亡までの時間を$T$、検診で診断が前倒しされた時間を$L$、検診診断から死亡までの時間を$S$として表します。
$$S = T + L \tag{1}$$
式(1)は、死亡時点に変化がなくても、先行時間$L$の分だけ診断後生存$S$が長くなることを示します。
したがって、検診の利益として知りたい量が死亡時点の変化なら、診断日を起点とする$S$だけでは答えに届きません。その場合は、比較の起点を検診への割付や招待に置き、疾患別死亡や全死亡を追う設計と区別して考える必要があります。
先行時間が生む見かけの延長
先行時間バイアス(lead-time bias)は、検診によって診断が早まった時間を、延命した時間として数えてしまう偏りです。腫瘍が検出可能になってから症状によって診断されるまでには観察できない期間があるため、検診発見例だけを見ても$L$の値は直接分かりません。
具体的には、症状診断後の平均生存を5年と設定し、1〜3年の先行時間を加えた20,000例のランダムに生成したデータセットを考えます。症状診断起点の平均生存は5.056年、検診診断起点では7.066年となり、その差2.010年は平均先行時間2.010年と一致しました。
この数値例では、5年生存割合も37.5%から55.3%へ上がりましたが、各人の死亡時点は一切変えていません。つまり、ここで観察された約18ポイントの差は検診による延命効果ではなく、診断後生存を測り始める時点が早まった結果です。
そのため、検診発見例と症状発見例の診断後生存をそのまま比べて、検診の効果を結論づける方法は不適切と考えられます。Duffyら(2008)が扱ったような補正法にも、直接観察できない前臨床期や病変の性質について仮定が入るため、補正値だけで設計上の比較を置き換えるのは難しくなります。
期間長が変える発見例の構成
一方、検診では、検出可能でありながらまだ症状を起こしていない前臨床期に病変を見つけます。この期間が長い病変ほど検診日に見つかる機会が増えるため、検診発見群には進行の遅い病変が多く含まれます。
この選択が期間長バイアス(length-time bias)です。先行時間バイアスが同じ経過の診断起点を動かすのに対し、期間長バイアスでは比較される病変の構成そのものが変わります。
実際、進行の速い型と遅い型を母集団で半数ずつとし、前臨床期をそれぞれ1年と6年に設定した60,000例では、遅い型は母集団の50.2%でした。それでも1回の検診で見つかった35,166例に限ると85.7%を占め、期間の長さから得られる理論値85.7%とも一致しました。
この構成差があると、検診発見群の予後が良くても、発見方法が病変の経過を改善したのか、もともと経過の遅い病変を多く選んだのかを切り分けられません。BlackとWelch(1993)は、診断技術の進歩が疾患頻度や治療利益を過大に見せうる仕組みとして、この問題を先行時間や過剰診断とともに論じています。
過剰診断は偽陽性と異なる
さらに、過剰診断(overdiagnosis)は、検診がなければ生涯に症状や死亡をもたらさなかった病変を診断することです。病変が存在しない人を陽性とする偽陽性や、診断後に不要な治療が行われる過剰治療とは概念が異なります。
この区別について、WelchとBlack(2010)は、進行しない病変だけでなく、進行が遅く他の原因による死亡が先に起こる病変も過剰診断になりうると説明しています。また、個々の診断時点では、その病変が将来症状を起こしたかという反実仮想を観察できないため、誰が過剰診断だったかを通常は確定できません。
数値の動きを見るため、病変をもつ20,000例のうち70%が無検診でも症状診断に至り、残りは症状を起こさない設定にしました。検診では20,000例全てが診断される一方、無検診での診断は14,071例となり、その差5,929例、検診診断の29.6%がこの設定での過剰診断に相当します。
ただし、29.6%は一般的な過剰診断率ではなく、この生成条件と「検診診断を分母にする」という定義から得た値です。Daviesら(2018)が指摘するように、過剰診断の推定値は分母、追跡期間、先行時間の扱いで変わるため、割合だけを報告せず定義を併記する必要があります。
そのため、過剰診断の割合を示す場合は、超過した診断数を検診群の全診断数で割るのか、検診で発見された診断数で割るのかを明記し、高齢者や併存疾患の多い集団では、病変が進行する前に他の原因で死亡する可能性も増えるため、対象年齢と追跡期間も割合の意味を左右します。
生存率だけでは利益を測れない
先行時間は診断後の時間を延ばし、期間長は予後の良い病変を選び、過剰診断は症状を起こさない病変を診断群へ加えます。いずれも検診発見群の診断後生存を良い方向へ動かしますが、統計的な仕組みは同じではありません。
一方、期間長バイアスと過剰診断は連続的に見える場合があります。前臨床期が長い病変のうち、やがて症状を起こすものが期間長バイアスに寄与し、生涯に症状を起こさないものが過剰診断に当たるため、解析では両者を定義上分けて扱います。
そのため、検診の効果判定では、診断後生存率が上がったという事実より、検診への割付または招待を起点に疾患別死亡や全死亡がどう変わったかを優先して読みます。また、累積罹患、追加検査、治療に伴う有害事象も同じ比較枠で確認しなければ、診断数の増加を利益として数える可能性が残ります。
もっとも、疾患別死亡には死因判定の影響があり、全死亡では対象疾患への効果が薄まることがあり、そのため、どちらか一方の数値だけで判断せず、研究目的、割付方法、追跡期間、死因判定、累積罹患を合わせて読む方が実際の研究結果を解釈しやすくなります。
さらに、診断の前倒しによって一時的に患者数が増えるため、検診開始直後の罹患増加だけでは過剰診断を判定できません。検診終了後も十分に追跡し、比較群で遅れて診断される症例を含めても残る累積罹患の差を確認します。
また、検診を受けた人と受けなかった人では、健康への関心、医療利用、基礎疾患なども異なり得ます。こうした自己選択を含む交絡が死亡率へ影響するため、受診者だけを比べる観察研究より、検診への招待を割り付けた比較の方が検診方針の効果を評価しやすくなります。
公表研究での推定と限界
Zahlら(2008)は、検診導入前後の年齢を対応させたコホートで乳がんの累積罹患を比較し、追跡後も残る超過を検討しました。この種の集団比較は過剰診断の程度を推定する材料になりますが、観察された超過の全てを個々の過剰診断例として特定するものではありません。
この推定には、検診群と比較群の背景、罹患率の時間変化、検診群で診断が前倒しされた分を吸収できる追跡期間が影響します。さらに観察研究では交絡も加わるため、超過診断数の差だけから検診との因果関係を断定するのは避けます。
一方、Duffyら(2008)は、検診発見と生存の関係を評価する際に、先行時間と期間長の双方を補正する方法を示しました。補正には意味がありますが、観察できない量への仮定を伴うため、仮定、感度分析、未補正値と補正値の違いが読者に分かる形で報告する必要があります。
このように、「診断された人の5年生存」なのか「招待された人の疾患別死亡」なのかによって、答える研究目的は異なります。そのため、検診研究の結果表では、推定値そのものを見る前に比較の起点と分母を確認します。
Rで診断起点の違いを確認
先行時間だけで生存曲線が動く様子を、base Rの標準関数で再現します。症状診断後の生存時間は平均5年の指数分布、先行時間は1〜3年の一様分布とし、20,000例の死亡時点は両方の曲線で共通です。
set.seed(42)
n_lead <- 20000L
postclinical_years <- rexp(n_lead, rate = 0.20)
lead_years <- runif(n_lead, min = 1, max = 3)
clinical_survival <- postclinical_years
screen_survival <- postclinical_years + lead_years
mean(screen_survival) - mean(clinical_survival)
mean(clinical_survival >= 5)
mean(screen_survival >= 5)
#> [1] 2.009983
#> [1] 0.37455
#> [1] 0.55325
出力の1行目は診断後生存の平均差であり、設定した平均先行時間と一致します。一方、続く2行は症状診断起点と検診診断起点の5年生存割合ですが、この差を死亡リスクの低下と読み替えることはできません。
同じデータから診断後時間の生存曲線を描いたコードは次のとおりです。図の横軸は診断からの年数なので、検診診断の曲線が上にあっても、暦上の死亡時点が遅くなったことは表していません。
png("draft/figures/lead-time-survival.png", width = 1100, height = 688,
res = 200, type = "cairo")
plot(ecdf(clinical_survival), verticals = TRUE, do.points = FALSE,
xlim = c(0, 12), ylim = c(1, 0), xlab = "Years since diagnosis",
ylab = "Proportion surviving", main = "Survival measured from diagnosis")
lines(ecdf(screen_survival), verticals = TRUE, do.points = FALSE, col = 2)
legend("topright", c("Clinical diagnosis", "Screen diagnosis"),
col = c(1, 2), lty = 1, bty = "n")
dev.off()
#> png
#> 2

図では検診診断起点の曲線が一貫して上にありますが、これは検診の有効性を示す解析結果ではありません。むしろ、診断後生存曲線だけでは検診による死亡時点の変化を識別できないことを可視化したものです。
検診結果を読む時の判断
診断後生存の改善が示された時、最初に確認するのは比較の起点です。診断日が起点なら先行時間が入り、検診発見例だけを選んでいれば期間長による構成差も加わり、診断数が増えていれば過剰診断も検討対象になります。
次に、過剰診断率では分子と分母、追跡期間、先行時間の調整方法を確認します。検診発見例に占める割合と、検診群の全診断に占める超過分では同じ名称でも値が異なるため、別研究の割合を数字だけで比較すると判断を誤ります。
したがって、検診の利益を診断後5年生存率だけで評価する方法では情報が不足します。割付または招待を起点とする死亡、累積罹患と有害事象、さらに観察研究なら交絡まで含めて読むことで、早く見つけたことと死亡を遅らせたことを分けて考えられます。
参考文献
- Duffy SW, Nagtegaal ID, Wallis M, et al. Correcting for lead time and length bias in estimating the effect of screen detection on cancer survival. American Journal of Epidemiology. 2008;168(1):98-104.
- Black WC, Welch HG. Advances in diagnostic imaging and overestimations of disease prevalence and the benefits of therapy. New England Journal of Medicine. 1993;328(17):1237-1243.
- Welch HG, Black WC. Overdiagnosis in cancer. Journal of the National Cancer Institute. 2010;102(9):605-613.
- Zahl PH, Maehlen J, Welch HG. The natural history of invasive breast cancers detected by screening mammography. Archives of Internal Medicine. 2008;168(21):2311-2316.
- Davies L, Petitti DB, Martin L, Woo M, Lin JS. Defining, Estimating, and Communicating Overdiagnosis in Cancer Screening. Annals of Internal Medicine. 2018;169(1):36-43.


