臨床試験で症状スコアをベースライン、4週、8週、12週と測定すると、通院中断などによって後半の値が抜けるため、観測できた値だけの横断的な比較では、時点間の相関と脱落までの経過を十分に利用できません。一方、最後の値を持ち越すLOCFは、その後も値が変わらないという強い前提を加えるのに対し、MMRMは利用可能な反復測定値を同時に扱い、治療効果の時間変化を推定します。
MMRMが同時に扱うもの
MMRMは反復測定値に対する混合モデル(mixed model for repeated measures)であり、GueorguievaとKrystal(2004)が説明したように、同じ対象者から得た値同士の相関を扱いながら観測済みの値を利用できます。なお、個人ごとのランダム効果を必ず含むモデルとは限らず、ここでは時点別の分散と時点間の共分散を直接指定する周辺モデルを指します。
今回の平均構造は、治療群、時点、治療群×時点、ベースライン、ベースライン×時点を固定効果として含みます。さらに、治療群×時点を入れることで治療差を全期間で一定とは置かず、12週など事前に定めた時点の群間差を推定できます。
平均構造と共分散構造の分担
対象者$i$の時点$j$における観測値を$Y_{ij}$とすると、今回の平均構造は次の形で表せます。この式では、時点ごとの平均構造と同一対象者内の誤差相関を分けて指定します。
$$
Y_{ij}=\mu_j+\tau_j T_i+\gamma_j B_i+\varepsilon_{ij},\qquad \boldsymbol{\varepsilon}_i\sim N(\mathbf{0},\boldsymbol{\Sigma}) \tag{1}
$$
式(1)では、$T_i$は治療群の指示変数、$B_i$はベースライン値、$\tau_j$は時点$j$の治療差で、$\boldsymbol{\Sigma}$は同一対象者内の誤差の共分散行列です。また、ベースラインとの関連を$\gamma_j$として時点ごとに許すことで、開始時の値と後続値の関係を全時点で同じと置く必要がなくなります。
この分担では、平均構造が「どの時点でどれだけ治療群間に差があるか」を、共分散構造が「同じ人の値がどの程度似るか」を扱います。一方、無構造共分散は各分散と各共分散を別々に推定できるため柔軟ですが、時点数に応じてパラメーター数が増えるため、共分散構造の選択では収束性と標準誤差の安定性も考慮します。
さらに、時点が増えるほど無構造共分散で推定する分散と共分散の数が急増し、標本数が少ない研究や後半の欠測が多い研究では、推定値が境界に近づいたり収束しなかったりします。その場合は、収束したという理由だけで構造を採用するのではなく、時点間隔と相関の減衰を説明できる候補を事前に定め、主要な治療対比の標準誤差が構造間でどの程度変わるかを確認します。
また、共分散構造を変えても平均構造に含めた治療群×時点の意味は変わりませんが、各時点の治療差に付く標準誤差は変化します。したがって、論文では「MMRMを用いた」とだけ書くのではなく、固定効果、共分散構造、推定法、自由度の扱いまで示すことで、解析条件を再現できるようにします。
欠測に対して必要な前提
Molenberghsら(2004)は、尤度に基づく反復測定解析が観測データに条件づけたMARの下で利用できることを論じており、MARは未観測値そのものを条件に加えなくても、観測済みのアウトカムや共変量によって欠測確率を記述できるという仮定です。ただし、この条件はモデル名だけで保証されるものではないため、研究における脱落過程と利用できる観測情報から妥当性を考えます。
一方、観測済みの情報で説明した後にも欠測確率が未観測値に依存するMNARでは、標準的なMMRMだけでその依存を反映できないため、MMRMを使えば欠測の問題が解消するわけではありません。そのため、欠測後の経過に関する別の前提を置いたMNARの感度分析を行い、結論が欠測に関する仮定によってどの程度変わるかを確認することが重要です。
さらに、MARの妥当性は欠測率の大小だけでは決まらず、欠測に先行する症状値、治療中止理由、有害事象などが解析データに含まれているかにも左右されます。欠測と関連する観測済み情報を平均構造や補助的な解析に反映できなければ、利用できる情報に条件づけるというMARの前提を支持しにくくなります。
ベースラインを共変量にする場合
ベースライン後の値を応答とするMMRMでは開始時の値を共変量に入れますが、Liuら(2009)が比較したように、ベースライン自体を応答ベクトルに含める方式とは、モデルに加える制約の意味が異なります。また、無作為化試験でも実現したベースライン平均には偶然の群間差が残るため、共変量調整によってそのばらつきを考慮した治療差を推定できます。
また、生の値とベースラインからの変化量のどちらを応答にするかによって、調整済み治療差が必ず異なるわけではなく、今回のデータでは、同じベースライン主効果と時点との交互作用を含めると12週の治療差の差は数値計算上0.000001でした。ただし、この一致は今回のモデル指定で得られた結果であり、応答の表し方によらず常に推論が一致するという一般則ではありません。
ベースラインを応答にするcLDA
cLDAではベースラインを後続時点と同じ応答ベクトルに入れ、無作為化群間のベースライン平均が共通であると制約します。一方、群ごとのベースライン平均を自由に推定するモデルにはこの制約がないため、単にベースラインを応答へ加えるだけでcLDAになるわけではありません。
この制約の下で、今回のcLDAが推定した12週の治療差は−6.696で、ベースラインを共変量としたMMRMの−6.696と数値計算誤差の範囲で一致しました。ただし、この一致だけから両者が常に同じとみなすのではなく、ベースラインを共変量にするのか、共通平均の制約を持つ応答にするのかを解析計画で明示することが重要です。
LOCFが加える別の仮定
LOCFは欠測後の全時点に最後の観測値を複写するため、観測済みのデータを利用するというより、欠測後の実際の経過を「最後の値から不変」と置き換える操作です。そのため、症状が自然に変化する場合や治療中止後に値が戻る場合には、この不変という仮定は実際の経過と一致しない可能性があります。
実際、Lane(2008)の比較では、LOCFのバイアスは脱落条件によって大きさも向きも変わり得る一方、MMRMは多くの設定でバイアスが小さかったと報告されています。さらに、LOCFで補った値を実測値と同じように扱うと、補完に伴う不確実性が標準誤差へ十分に反映されません。その結果、点推定の偏りだけでなく、信頼区間や検定結果の解釈にも影響が及びます。
このため、標準的な経時データ解析では、欠測を埋めやすいという理由だけでLOCFを主解析に選ぶ根拠は乏しくなります。MARと平均・共分散構造の前提を明示したMMRMを主解析に置き、MNARを含む代替的な欠測前提を感度分析で調べることで、推定対象と仮定の対応を説明しやすくなります。
500例の経時データによる確認
対照群と治療群を250例ずつとし、ベースラインと4週、8週、12週の連続症状スコアを持つ500例のデータセットをランダムに生成しました。低い値を改善方向とし、12週の治療差は生成時に−6と設定したうえで、直前に観測されたスコアが高いほど次時点が欠測しやすい単調欠測となるMARを置いています。
この脱落により、観測数は4週の500例から8週の436例、12週の395例へ減りました。12週の欠測率は対照群20.4%、治療群21.6%と近いものの、欠測と直前のアウトカムの関係が解析法間の差に影響するため、欠測率だけから影響の有無を判断することはできません。
library(nlme)
mmrm <- gls(
outcome ~ baseline * visit + treatment * visit,
data = long_post,
correlation = corSymm(form = ~ visit_num | id),
weights = varIdent(form = ~ 1 | visit),
method = "REML", na.action = na.omit
)
locf_model <- lm(locf_week12 ~ baseline + treatment_label)
#> Week 12 observed: 395/500
#> MMRM: -6.696; cLDA: -6.696
#> LOCF: -5.717; complete-data ANCOVA: -6.410
出力の負の治療差は、治療群の12週症状スコアが対照群より低い方向を表します。MMRMは−6.696(95%信頼区間−7.987〜−5.404)、LOCFは−5.717(95%信頼区間−6.962〜−4.473)で、この生成条件ではLOCFがMMRMより0.978だけ0方向へ動きましたが、この向きはLOCF一般の性質ではなく、脱落条件が変われば反対方向へ動くこともあります。
この差は、MMRMが未観測の12週値を個別に埋めた結果ではなく、4週と8週を含む観測済みデータ全体から平均構造と相関を同時に推定した結果です。一方、LOCFでは最後に観測された時点が対象者ごとに異なるため、同じ「12週値」の列に4週、8週、12週の測定値が混在し、推定される量の臨床的な意味も変わります。

estimate <- c(-6.695508, -6.695511, -5.717194, -6.410112)
lower <- c(-7.987351, -7.985340, -6.961834, -7.622128)
upper <- c(-5.403666, -5.405682, -4.472553, -5.198096)
method <- c("MMRM", "cLDA", "LOCF", "Complete-data ANCOVA")
plot(estimate, 4:1, type = "n", xlim = range(lower, upper),
yaxt = "n", xlab = "Treatment difference at Week 12 (95% CI)", ylab = "")
abline(v = 0, col = "grey65", lty = 2)
segments(lower, 4:1, upper, 4:1, lwd = 2, col = "#276FBF")
points(estimate, 4:1, pch = 19, col = "#C44536")
axis(2, at = 4:1, labels = method, las = 1)
公表研究から見える位置づけ
Mallinckrodtら(2004)は、不完全な経時データで尤度に基づく反復測定法とLOCF後の分散分析を比較し、共分散構造が治療対比の推定に関わることを示しました。その結果は特定の試験設定に基づくため数値自体を他領域へそのまま移すことはできませんが、MMRMを報告する際に、治療×時点を含む平均構造と共分散構造の両方を示す必要性が分かります。
また、結果表には各時点の調整済み平均と治療差、95%信頼区間を組み合わせることで、効果の方向と不確実性を同時に確認できます。欠測を含む解析では、MARの前提、主解析の平均・共分散構造、感度分析で変更した欠測前提も併記すると、各数値がどの仮定の下で得られたかを追いやすくなります。
解析計画で決める判断軸
MMRMは欠測値を単純に補完する手法ではなく、観測された経時データの平均構造と対象者内相関を同時に推定するモデルです。そのため解析計画では、主要な評価時点と治療対比、ベースラインの入れ方、平均構造、共分散構造、MARを外した感度分析の関係を先に定めておくことで、結果を見た後の手法選択を避けやすくなります。
さらに、解析法を選ぶ前に、治療中止後を含めてどの時点のどの治療効果を推定するかを定める必要があります。その推定対象に対して、LOCFが置く「最後の値が続く」という仮定は通常説明しにくく、MMRMのMARも無条件には成立しないため、反復測定構造をモデル化するMMRMを主解析に置き、別の欠測前提による感度分析を組み合わせることで解析方針を明確にできます。
参考文献
- Lane P. Handling drop-out in longitudinal clinical trials: a comparison of the LOCF and MMRM approaches. Pharmaceutical Statistics. 2008;7(2):93-106.
- Liu GF, Lu K, Mogg R, Mallick M, Mehrotra DV. Should baseline be a covariate or dependent variable in analyses of change from baseline in clinical trials? Statistics in Medicine. 2009;28(20):2509-2530.
- Molenberghs G, Thijs H, Jansen I, Beunckens C, Kenward MG, Mallinckrodt C, Carroll RJ. Analyzing incomplete longitudinal clinical trial data. Biostatistics. 2004;5(3):445-464.
- Mallinckrodt CH, Kaiser CJ, Watkin JG, Molenberghs G, Carroll RJ. The effect of correlation structure on treatment contrasts estimated from incomplete clinical trial data with likelihood-based repeated measures compared with last observation carried forward ANOVA. Clinical Trials. 2004;1(6):477-489.
- Gueorguieva R, Krystal JH. Move over ANOVA: progress in analyzing repeated-measures data and its reflection in papers published in the Archives of General Psychiatry. Archives of General Psychiatry. 2004;61(3):310-317.


