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【医療統計版】ROPEと意思決定分析:実質的な差をどう定めるか

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治療群と対照群の差を推定したとき、事後分布が0の近くに集まっていても、どの程度までを研究上無視できる差とするかが未定義なら「差がない」とは言えません。反対に、その範囲を結果を見てから広げればどの結果でも同等らしく見せられるため、ROPEで実質的同等領域を事前に置き、意思決定分析で不確実性と誤判断の損失を結び付けます。

そこで、本記事ではROPEを事後分布の状態を記述する範囲として扱い、損失関数を候補行動へ結び付ける規則として区別します。さらに、境界幅を変えた感度分析により、推定結果の変化と価値判断の変化を分けて示します。

効果の向きと判断対象

収縮期血圧の低下量を例に、介入群の平均から対照群の平均を引いた差を$\theta$とし、正の$\theta$は介入群で低下量が大きい方向、負の$\theta$は小さい方向です。ただし、この符号の意味はアウトカムの定義を反転すれば変わるため、ROPEを決める前に推定対象、単位、望ましい方向を固定する必要があります。

この推定対象に対し、実質的に同等と扱う下限を$a$、上限を$b$とすると、ROPE内の事後確率は次の式で表せます。

$$\Pr(a \leq \theta \leq b \mid y)=\int_a^b p(\theta\mid y)\,d\theta.\tag{1}$$

式(1)は、データ$y$を観測した後の$\theta$の分布のうち、$a$から$b$までに入る面積です。この値は「差が存在しない確率」ではなく、あらかじめ定義した実質的同等領域へ効果が入る確率を表します。

有意差が出ない結果には、差が小さい場合だけでなく、データが少なく事後分布が広い場合も含まれます。そのため、p値が有意でないことを同等性の根拠にせず、研究上無視できる差の範囲と不確実性を別々に示すことが重要です。

ROPEの境界を先に決める根拠

Lakensら(2018)は同等性境界について、測定上識別できる大きさ、費用と便益、先行研究などから、観測結果を見る前に正当化する必要を論じています。同論文の主題は頻度論的な同等性検定ですが、境界を研究目的から定めるという論点はROPEにも共通します。

たとえば収縮期血圧の平均差で±2mmHgをROPEに置くなら、その2mmHgは解析データから推測する値ではありません。一方、標準化差は対象集団のばらつきや測定誤差で変わり、患者や研究者にとって無視できる原単位の差と一致する保証がないため、慣例値を機械的にROPEの境界へ移す方法は推奨できません。

原単位で境界を置く場合でも、測定の再現性より細かい差を同等領域の外へ置けば、測定誤差で分類が揺れやすくなります。そのため、臨床的な重要性だけでなく、使用する測定法がその差を識別できるか、同じ時点と条件で比較できるかも境界の根拠に含めます。

境界に幅の候補が残る場合は、主解析の境界を事前に定めたうえで、複数の妥当な幅による感度分析を示す方が適切ですが、結果が望ましい分類になる幅だけを主結果として選ぶと、ROPEが研究目的ではなく観測データに従って動くため、実質的同等性の解釈を支えられなくなります。

事後分布を三つの領域で読む

ランダムに生成したデータセットでは、介入群と対照群を各100例、各群の標準偏差を既知の8mmHgとし、平均低下量をそれぞれ7mmHgと5mmHgに設定しました。実際に得られた標本平均は6.3001mmHgと5.2601mmHgで、観測された群間差は1.0400mmHgでした。

このデータに平均0、標準偏差10の正規事前分布を用いると、事後平均は1.0269mmHg、事後標準偏差は1.1242mmHgで、等裾95%信用区間は-1.1765〜3.2303mmHgでした。ここで±2mmHgをROPEと仮定すると、ROPE下側領域は0.35%、ROPE内は80.31%、ROPE上側領域は19.33%となり、三領域の確率は合計100%です。

この80.31%は、効果のかなりの部分が説明用の同等領域に入ったという連続的な要約値であり、Makowskiら(2019)はROPE内に含まれる事後分布の割合を実質的な重要性の指標として扱っていますが、80.31%という値だけから採用や不採用を自動的に決める規則までは導かれません。

また、Kruschke(2018)の分類規則は95%HDI全体とROPEの位置関係を用い、今回の事後分布は正規分布なので、95%HDIの端点は等裾95%信用区間の-1.1765〜3.2303mmHgと一致し、上限がROPEの2mmHgを越えるため結論保留となります。なお、ROPE内確率80.31%は分布の面積、結論保留は95%HDIと境界の包含関係を要約しており、両者は矛盾しません。

幅を変えても事後分布は動かない

ROPEの半幅を1mmHgに狭めると、同等領域の確率は45.48%、ROPE上側領域は50.95%になりました。反対に半幅を3mmHgへ広げると、同等領域は96.02%、ROPE上側領域は3.96%となり、同じ事後分布でも境界の置き方で領域確率は大きく変わります。

データや事前分布を変えて再推定しておらず、事後平均1.0269mmHgと事後標準偏差1.1242mmHgは固定されたまま、確率を数える区間だけが変わっています。したがって、この感度分析が明らかにするのは推定の不安定さではなく、判断境界への依存です。

そのため、複数の幅で結果が変わることをROPEの欠点として片付けるより、どの幅なら同じ行動を選べるかを検討した方が適切となります。それにより、境界候補ごとの根拠と領域確率の併記も合わせ、結論がデータと価値判断のどちらに強く依存したかが区別できます。

また、ROPEを必ず0の周囲で対称に置く必要はなく、負方向と正方向で同じ大きさを無視できない研究では非対称な境界も候補です。ただし、非対称性も観測された事後分布の形から決めるのではなく、アウトカムの意味と意思決定上の帰結に基づく事前の説明が必要です。

損失関数で行動へつなぐ

ROPEが効果の大きさを分類するのに対し、意思決定分析では選べる行動と誤判断の損失を定義します。ここでは計算例として採用対象状態を$\theta>2$mmHg、行動を「採用する」または「採用しない」とし、誤採用の損失を$L_{FA}$、便益を見逃す損失を$L_{MB}$と置きます。

$$\mathbb{E}[L(\mathrm{adopt},\theta)\mid y]=L_{FA}\Pr(\theta\leq2\mid y),\quad
\mathbb{E}[L(\mathrm{not\ adopt},\theta)\mid y]=L_{MB}\Pr(\theta>2\mid y).\tag{2}$$

式(2)は、各行動で起こり得る誤りの事後確率に、その誤りの損失を掛けた事後期待損失です。二つを比較し、期待損失が小さい行動を選びますが、損失の数値には臨床的な便益とリスク、患者選好、費用などの根拠が要ります。

採用対象領域の事後確率19.33%に対し、二つの損失を同じ1と置くと、採用の期待損失は0.8067、採用しない期待損失は0.1933となり、後者が選ばれます。誤採用の損失を見逃しの4倍にすると採用基準は80%へ上がり、採用の期待損失3.2266に対して不採用は0.1933のままです。

逆に、便益を見逃す損失を誤採用の9倍と仮定すると、採用基準は10%へ下がります。この場合は採用の期待損失0.8067が不採用の1.7401より小さくなり、同じ事後分布から選ばれる行動だけが採用へ変わりました。

ここで、二つの損失を同じ倍率で増やしても期待損失の大小関係は変わらず、行動を決めるのは絶対値ではなく損失比です。一方、三つ以上の行動、連続的な便益や有害事象、費用まで扱う場合は単純な二状態表では足りず、各状態と行動の組合せに対応する損失を定義する必要があります。

したがって、実質的同等性の境界と、誤採用と見逃しのどちらを重く見るかは別の判断なので、ROPE内確率が一定値を超えたら常に不採用とする進め方は採用できません。両者を損失関数で明示して初めて、効果の状態と行動の対応を追跡できます。

研究報告で分けて示す情報

Kruschke(2018)が示したROPEと95%HDIの位置関係は、点帰無値を受容または棄却する判断規則として提案されています。一方、Makowskiら(2019)の連続的なROPE割合は情報を一つの分類へ縮約しないため、探索的な結果や境界感度を示す場面では後者の方が説明しやすいでしょう。

この二つを報告するときは、事後分布、用いた区間の種類、ROPE境界とその根拠、ROPE内外の確率、採用した分類規則を区別した記載が必要です。さらに、行動を選ぶ場合は候補行動、状態の区切り、損失値の根拠、各行動の事後期待損失を加えると、推定結果から判断までの経路が再現可能です。

こうした記載では、解析計画の段階で境界と損失を表にしておくことが後付けを避ける一助になります。境界の根拠が暫定的ならその不確実性も明記し、主解析と感度分析の位置づけを分けることで、事後分布を見た後の選択と事前の判断が区別されます。

また、Lewisら(2007)は、ベイズ意思決定で追加情報の価値と試験継続などの費用を損失関数へ入れ、事後期待損失を比較する考え方の報告です。本記事では臨床試験の設計へ広げませんが、推定値だけで行動を決めず、結果と行動の間に価値判断を明示する原理は共通です。

さらに、Chaudhuriら(2023)は心不全機器の研究で患者選好を取り入れたベイズ意思決定分析を報告し、誤った肯定判断と否定判断の損失が対称とは限らない応用例です。疾患や機器に固有の数値は一般化できませんが、誰の便益とリスクを損失へ反映したかの説明が必要です。

報告項目をサイト内の別記事と照合する場合は、ベイズ解析の報告:事前分布・診断・事後量をそろえるが参照先です。ROPEの記事でも、境界と損失だけでなく、尤度、事前分布、事後分布の要約をそろえなければ、80.31%という確率が得られたモデルの再現は不可能です。

Rで領域確率を再現する

base Rとstatsを使い、各100例のランダムに生成したデータセットから正規事後分布を求めました。掲載コードは解析済みスクリプトのうちROPE内外の確率と図を再現する部分であり、完全な解析では数値積分との一致と三領域の確率和も確認済みです。

set.seed(42)
sample_size <- 100
control <- rnorm(sample_size, mean = 5, sd = 8)
treatment <- rnorm(sample_size, mean = 7, sd = 8)
mean_difference <- mean(treatment) - mean(control)
likelihood_se <- 8 * sqrt(2 / sample_size)
posterior_variance <- 1 / (1 / 10^2 + 1 / likelihood_se^2)
posterior_mean <- posterior_variance * mean_difference / likelihood_se^2
posterior_sd <- sqrt(posterior_variance)
rope <- c(-2, 2)
probabilities <- c(below_rope = pnorm(rope[1], posterior_mean, posterior_sd),
  equivalent = pnorm(rope[2], posterior_mean, posterior_sd) - pnorm(rope[1], posterior_mean, posterior_sd),
  above_rope = 1 - pnorm(rope[2], posterior_mean, posterior_sd))
round(probabilities, 4)
#> below_rope equivalent  above_rope 
#>     0.0035     0.8031      0.1933

出力は左から、ROPE下側領域、±2mmHgのROPE、ROPE上側領域に入る事後確率です。80.31%が最大でも95%HDIはROPE内に収まっていないため、この出力だけで実質的同等を確定せず、境界の根拠と採用する判断規則を添えた解釈が必要です。

effect_grid <- seq(-4, 6, length.out = 600)
density <- dnorm(effect_grid, posterior_mean, posterior_sd)
png("draft/figures/rope-posterior.png", width = 1100, height = 688,
  res = 200, type = "cairo")
plot(effect_grid, density, type = "l", lwd = 2,
  xlab = "Mean difference in SBP reduction (mmHg)", ylab = "Posterior density")
rope_grid <- effect_grid[effect_grid >= rope[1] & effect_grid <= rope[2]]
polygon(c(rope_grid, rev(rope_grid)),
  c(dnorm(rope_grid, posterior_mean, posterior_sd), rep(0, length(rope_grid))),
  col = adjustcolor("#2C7FB8", alpha.f = 0.35), border = NA)
lines(effect_grid, density, lwd = 2)
abline(v = rope, lty = 2, col = "#444444")
legend("topright", legend = c("Posterior", "ROPE: -2 to 2 mmHg"),
  lty = c(1, 2), lwd = c(2, 1), col = c("black", "#444444"), bty = "n")
dev.off()
事後正規分布の密度曲線と、-2から2mmHgまでを青く塗ったROPE。ROPE上側領域にも分布が残る
図1 事後平均は1.0269mmHgで、青い±2mmHgのROPEに80.31%が入ります。一方、ROPE上側領域にも19.33%が残り、95%HDIの上限はROPEを越えています。

図では青い面積がROPE内確率に対応し、破線は説明用に置いた境界です。境界の外側にも密度が残る形を見ると、単一の分類だけでなく三領域の確率を示す理由が分かり、境界を±1mmHgや±3mmHgへ動かしたときに面積だけが変わることも確認できます。

同等性と行動を混ぜない結論

実質的に差がない範囲は、結果を見てから便利な幅へ調整する数字ではなく、推定対象の単位で研究目的と領域知識から定める判断境界です。その境界、事後分布、ROPE内外の確率を分けて示せば、「差がない」という表現がどの条件に基づくかを確認できます。

そして、同じ事後分布でも誤採用と見逃しの損失が変われば選ぶ行動は変わります。ROPEを状態の記述、損失関数を行動の選択に使い分け、境界と損失の根拠を事前に残すことが、数値だけから結論を出さず第三者の確認にも耐える透明で実務的な進め方です。

実際の研究では、医学的に無視できる差や損失比を公開資料だけで一意に定められない場合があります。アウトカムの単位、対象集団、患者選好まで含めた解析方針を検討する場合は、Dr.データサイエンスでご相談を承っています。

参考文献

  1. Kruschke JK. Rejecting or Accepting Parameter Values in Bayesian Estimation. Advances in Methods and Practices in Psychological Science. 2018;1(2):270-280.
  2. Makowski D, Ben-Shachar MS, Chen SHA, Lüdecke D. Indices of Effect Existence and Significance in the Bayesian Framework. Frontiers in Psychology. 2019;10:2767.
  3. Lakens D, Scheel AM, Isager PM. Equivalence Testing for Psychological Research: A Tutorial. Advances in Methods and Practices in Psychological Science. 2018;1(2):259-269.
  4. Lewis RJ, Lipsky AM, Berry DA. Bayesian decision-theoretic group sequential clinical trial design based on a quadratic loss function: a frequentist evaluation. Clinical Trials. 2007;4(1):5-14.
  5. Chaudhuri SE, Adamson P, Bruhn-Ding D, et al. Patient-Centered Clinical Trial Design for Heart Failure Devices via Bayesian Decision Analysis. The Patient. 2023;16(4):359-369.

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